1.会社の概要
株式会社ビット・トレード・ワン(本社:神奈川県相模原市中央区)は、USB入力機器、各種センサーモジュール、各種キーボード、各種電子工作キットなど、260種類に上る多様な製品を企画・開発・製造・販売している会社です。業態的には、①受託開発、②電子工作キット・モジュールの開発・販売、③同社オリジナル製品の開発・販売の3つが柱となっています。
これらの中には、マニアが喜びそうな製品も結構あります。音にこだわる人がスマートフォンとヘッドフォンで音楽を聴く際に使うポータブルヘッドフォンアンプ、ゲームの際に軽快かつスピーディなキー入力を可能とする複数同時押し対応のキーボード、ゲーム中にスマートフォン経由で会話を可能とするヴォイスミキサーGなどです。本社を訪問すると、社屋の中にさまざまな部品や製品が所狭しと並べられており、工房的な雰囲気が漂っています。写真1は、同社の製品の一部をピックアップしたものです。
写真1:ビット・トレード・ワン社の製品例
【出所】ビット・トレード・ワン社のホームページ
2.IoT活用に関する取り組みの概要
同社がIoT関連製品に取り組むきっかけとなったのは、ラズベリーパイ注です。雑誌の特集でこれを付録としたところ飛ぶように売れたことを契機に、同社の製品ラインアップの中にラズベリーパイ付きのセンサーを取り入れています。現在も、例えば空気の状況を監視して空気清浄機を動かすなど自作向けの需要は続いており、売れ筋商品の一つになっています。
注:イギリスのラズベリーパイ財団によって開発されたカードサイズの基盤上に実装されたコンパクトなコンピューター。温度や照度を計るセンサーを接続し空調や照明を制御する、カメラモジュールを接続してロボットに搭載し、映像を見ながらロボットを遠隔操作するなど、さまざまな電子部品を接続することで多様な機能を実現できる。IoT開発を手軽に体験できるツールとして広く使われている。
しかし、同社の阿部代表取締役は、製品開発に当たりIoTを特に意識したことはないそうです。それでも気が付いてみたら、各種センサーモジュールや制御装置など世間ではIoT関連製品と呼ばれるものが製品ラインアップの中で増えています。現在では、さまざまなモノがインターネットに接続されるようになっており、そのトレンドが同社製品にも及んでいるのです。写真2は、同社のIoT関連製品の一部をピックアップしたものです。
同社はファブレスが基本で、製造のほとんどを外注しています。同社の特長は、品質重視と価格重視のどちらにも対応できることです。企業から受託開発した製品は、ロット数が少なくても一定レベル以上の品質が求められます。一方、雑誌の付録となる電子工作キットは、ロット数は多くなりますができる限り安くすることが求められます。部品の選択、実装の仕方を工夫し、的確な外注先と外注時期を選択すること、それとさまざまな製品を開発して経験を蓄積したことで、これに対応できるようになりました。
写真2:ビット・トレード・ワン社のIoT関連製品の例
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3.今後の発展の鍵を握るハードウェア開発のオープン化戦略
ビット・トレード・ワン社において今後の発展戦略の鍵を握るのは、ハードウェアの企画・開発作業のオープン化です。世間では、電子モジュールに関するさまざまなアイデアが生まれていますが、製品化されるのはその中のごく一部です。同社が着目したのは、埋もれているアイデアの製品化です。これをお手伝いするため、同社は「マイプロダクトサービス」を提供しています。
このサービスでは有望なアイデアを製品化するために、量産設計/製品外観設計/パッケージデザイン/マニュアル作成など企画・開発を提案者と共同で行います。そして、その後の製造、流通、販売&サポートはビット・トレード・ワン社が責任を持って行い、アイデアを出した人には販売数量に応じて予め決められたレートのペイバックを行います(下図を参照)。
このサービスは順調に発展しています。2019年度では同社が提供している製品数の約3分の1、90種類の製品がこのサービスから生まれています。出荷数量ベースでも、約3分の1がこのサービスから生まれた製品となっています。
図:マイプロダクトサービスの概要
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このサービスの導入は、ユニークな製品の開発や製品の多様化には貢献しますが、一方で売れない死に筋商品の増加につながる危険もあります。同社はこのリスクを低減するため、部材や製造管理をリアルタイムで見える化できるよう高度化しています。個々の製品の売れ行きを見ながら製造計画を機動的に見直すことで、在庫を適正化しているのです。まさに、製造管理の仕組みをITで迅速化・高度化することで、多品種少量生産の効率化を実現しているのです。
写真3は、マイプロダクトサービスで生まれた製品の一部をピックアップしたものです。
写真3:マイプロダクトサービスで生まれた製品の例
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4.今後の課題
(1) 現在抱えている課題、将来的に想定する課題
現在、同社が抱えている大きな課題の一つは、クラウドへの対応です。IoT関連製品の売り上げを伸ばし、付加価値を高めるには、クラウドサービスを活用することが有力な選択肢の一つです。
この対応のボトルネックとなっているのは人材です。残念ながらこの課題は、クラウドサービスに詳しい人材を雇用することだけでは解決に至りません。まずは、クラウドサービスで同社のビジネスをどのように高度化できるのか、そしてそれを利益に結び付けるにはどのようにビジネスを展開すれば良いのかなどについて、方針を立て実行することが不可欠です。この際には、他の企業などとの連携も必要になります。例えばB to Bの領域を狙うのであれば、IoT関連製品やクラウド活用に知見を有する企業やこれらを使って業務を変革したい企業との連携が必要になります。
(2) 強化したい領域
同社が強化したい領域は、教育教材です。IoTの発展でPoC(Proof of Concept:概念実証)が盛んになっていますが、PoCを迅速かつ安価に実施する前提条件として簡単なハードウェアを自作することが必要な場合が多々あります。これを実現するには、誰もが自分のアイデアを簡単に形にする能力を身に付けることが求められます。
その基礎となるのが自作の経験です。しかもコロナ禍の影響で、現在は人が集まった形で行われている試作や実験などの作業は個別化が必要になります。安価で教育効果の高い教材へのニーズが、今後一層高まる可能性があるのです。電気・エレクトロニクスや機械の基本を理解し、体系的な知識を身に付けることに貢献する教材キットが開発されれば、それはロングセラー製品になるでしょう。
(3) 他企業などとの連携を強化したい事項
・ユニークで世の中のニーズにマッチする製品開発を加速するため、マイプロダクトサービスの利用者を増やしハードウェア開発のオープン化を一層加速したい。そのために必要な推進体制を強化したい。
・電気・エレクトロニクスや機械などの知識を体系的、かつ、効果的に学習できる教材開発について、教育機関などとの連携を考えて行きたい。
5.さがみはらIoT研究会に期待すること
・参加企業が協力してコラボ製品を開発することができれば嬉しい。
・最新のITの動向やIoT活用の事例について、積極的な紹介をお願いしたい。また、政府や自治体の動向や社会の最新情勢についても、情報提供をお願いしたい。
■ 本事例に関するお問合せ先
会社名 | 株式会社ビット・トレード・ワン |
会社名よみ | かぶしきがいしゃ びっと・とれーど・わん |
担当者氏名 | 阿部 行成 |
メールアドレス | y.abe@bit-trade-one.co.jp |
郵便番号 | 〒252-0243 |
住所 | 神奈川県相模原市中央区上溝5-1-23 |