谷津建設株式会社の谷津弘代表取締役社長を相模原市中央区東淵野辺の本社に訪ねました。
同社の始まりは大正3年に谷津さんの祖父が鎌倉で興した谷津忠五郎建築業。祖父の忠五郎氏は福島に生まれ同地で大工や土木の腕を磨き、福島白河城の修復にも携わる。その後、北海道、そして鎌倉に移り住み鎌倉では建長寺山門の修復などにも関わった。同社は鎌倉に拠点を構えていたが、昭和13年頃から始まった軍都計画により相模原中心に工場、軍事施設、住宅などの仕事が急増したことから父谷津久男が相模原の仕事を数多く手がけるようになる。そして、昭和29年に相模原市淵野辺に移転し、谷津建設有限会社を設立する。
谷津さんは昭和50年に谷津建設に入社。入社した当時は相模原市が人口急増に伴い道路、下水道、小・中学校などの整備に追われていた時期で公共事業さえやっていれば建築会社は成長を遂げられた時代だった。谷津建設も公共工事が90%を占めていたが、そんな中で起きた公共工事のトラブルで仕事は激減した。谷津さんは民間工事の営業に奔走し、相模原市内に移転を希望する印刷工場の受注に成功する。土地の確保に困っていた同社に土地を紹介したことが受注に繋がったそうだ。単なる建築請負ではなく、土地の斡旋、資金調達、テナント紹介、施工・管理運営サポートなどを総合的にサポートする谷津建設の現在のスタイルの萌芽となった仕事だった。その後も商業ビル、マンション、福祉施設、教育施設を次々と手掛けていき、今は民間90%、公共10%に。
今、谷津建設が施工した「江の島湘南港ヨットハウス」が注目を集めている。施主は神奈川県、設計はヘルム+オンデザインパートナーズ。神奈川建築コンクール優秀賞、神奈川県建築士会賞、神奈川県建設業協会賞を受賞し、2016年日本建築学会作品選奨にも選ばれている。海辺の立つこのヨットハウスは「湘南の波と帆」をイメージした面積約2,000平方メートルを超える波のように大きくうねった一体成型の大屋根が特徴で、今までに実例が少ない3次元自由曲線の複雑な構造をしている。その設計図は山や谷の起伏を示す等高線で描かれていたという。等高線で表された3次元自由曲線の大屋根をイメージし、施工図に落とすことはとても難しく、谷津建設のスタッフは頭を抱えたそうだ。困り果てた谷津さんは伝を頼って大手ゼネコンにも相談にいったが
「こんな難しい仕事、県からペナルティーを課されても、辞退したほうがいい」
と助言されたそうだ。あるウェブサイトを見ると「建築屋にとってはどこを見ても施工時の苦労が垣間見れる。きっと竣工時、全関係者は出来上がった建物を見て涙したのではないでしょうか」という記事もある。
困り果てていた時に助っ人が現れる。友人である工業用モデル制作を手掛ける湘南デザインの松岡社長が百分の一の模型を3Dプリンターで作ってくれるという。考えてもみなかった提案に谷津さんは半信半疑だったが、完成した模型を見てスタッフ一同が
「なるほど、こんな形をした建物なんだ」
と目から鱗だったそうだ。この模型によって、大屋根と建物の内、外が明確にイメージすることができ、施工図もスムーズに仕上がった。現地での施工も順調に進み2014年4月に完成している。工業用製品製造で使われるモノづくり技術と建築技術が融合された新しいスタイルが確立されたのだ。完成から2年後の今年6月、この湘南港は東京五輪・セーリング競技のメイン会場に選ばれた。
革新は物事の限界、境界を越えた領域で起きる。ある経営者は「仕事や事業に限界線を引いて、ここまでしかやらないと言ってしまうと、新しい仕事も事業も生まれてこない」と語っている。
谷津社長率いる谷津建設には限界や境界を越えて、新しい可能性に挑戦し続けて欲しいと思う。建築を愛して止まない谷津さん、期待しています!
谷津建設株式会社
代表取締役社長 谷津 弘(やつ ひろし)
所在地 :相模原市中央区東淵野辺4丁目24番15号
従業員数:51名 売上高:70億円
事業内容:建築の設計、施工。建物保守管理、建物賃貸管理等
URL :
http://www.yatsu.co.jp