真空装置の技術革新に継続的に取り組んでいる株式会社昭和真空の小俣邦正代表取締役執行役員社長を相模原市中央区田名の本社工場に訪ねました。
今年、創業70年を迎える同社は、昭和28年に創業者である小俣守正氏(現社長の実父)が「小俣真空機器研究所」を起業し、真空ポンプの修理をはじめたことがはじまり。昭和33年に昭和眞空機械株式会社を設立し、水晶振動子製造用の全自動真空蒸着装置を開発、水晶振動子製造用を中心とする真空装置メーカーとして事業の基盤を築いた。その後、光学用真空蒸着装置市場にも参入、水晶デバイスメーカーや光学デバイスメーカー、その他電子部品メーカー向け真空技術応用装置メーカーとして確固たる地位を築く。小俣邦正社長が代表取締役に就任したのは、昭和61年、33歳の時。その1カ月後に先代が他界された。その後、平成12年に株式上場を果たし、平成14年に中国上海に現地法人を設立し中国での装置製造を開始した。平成16年に現在の相模原工場を建設し、本社機能や営業部門などを移転集約、令和2年には同社の真髄でもある研究開発棟を新設し、研究開発部門のさらなる強化を図った。同社の事業は、大きく真空技術応用装置事業とサービス事業に分けられる。前者は、主に真空中で特定の基板に薄膜を形成させる装置を製造・販売している。薄膜形成技術としては蒸着、スパッタリング、CVD、ALDなどがある。世界トップシェアの水晶デバイス製造装置(主力は周波数調整装置)のほか、光学部品製造装置(主力はマイクロカメラレンズ用反射防止膜成膜装置)、電子部品製造装置の3分野が真空技術応用装置事業の主力製品分野となる。特に同社の真空技術応用装置は、顧客の要望を最大限に取り入れた“オーダーメイドのカスタム装置”であることが大きな特長となっている。また、サービス事業では、真空装置販売後の消耗部品の販売、修理、改造などを扱っている。これまでに、同社は経済産業省より「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されるなど、国や県から数々の受賞・選定歴を有している。年頭に当たり、同社代表として株式上場を決断し、水晶振動子製造用真空装置で世界No.1のシェアを獲得してきた小俣邦正社長に自社経営などについて聞いた。
‒ 昭和真空が長期的に目指している方向は?
当社は真空技術をキーテクノロジーとして、電子部品製造装置やそれに付随するサービスを提供しています。そのような中、「小さくて強い会社をつくろう」「ニッチトップをたくさん作ろう」を長期的に目指す会社の姿とし、これを社員とともに共有しています。“いい会社” というのは規模に関係はなく” お客様に喜んで頂いて、社員が幸せになれる会社“と考えます。当社のお客様は世界的にも有名な会社ですが、ビジネスの取っ掛かりは共同開発です。お客様の研究開発部門と積極的に情報交換しながら一緒に開発していくことが昭和真空のビジネスモデルになっています。お客様から見ると、当社の規模は小回りが利いて意思疎通が図り易い。そしてすぐに対応してくれる相手だと思って頂いているのではないでしょうか。それを基本に良いモノを届けようと取り組んでいます。
‒ 昭和真空の強みは何でしょうか?
昭和真空は、1.真空状態を作り出すためのハード技術 2.真空中におけるロボット搬送技術 3.パソコンによる自動化制御技術 4.真空中における成膜のソフトウエア技術という4つの要素技術を持っています。これが昭和真空の誇る真空技術です。そして水晶振動子製造用真空装置で世界トップシェア、ハイエンドのスマートフォンカメラレンズ用反射防止膜成膜装置で世界トップシェアを獲得しています。世界の一流企業における先端技術開発部門との取引を通じて、社員は仕事への動機づけが高く「やりがい」と「プライド」を常に持っていることが昭和真空の強みのひとつだと思います。
‒ 経営者として何を大切にしていますか?
経営資源である「ヒト・モノ・カネ」で最も大切なものは「ヒト」です。人が増えてくるとき、誰に何をやってもらうのか、どういう仕事をしてもらうのか、同じ価値観を持っているのか、信念をもって一緒に歩んでいけるのか、ということが一番大事だと考えます。特に経営者は、いかに同じ価値観で歩んでもらえるかということを意識する必要があり、それは社長の強いリーダーシップの取り方にかかります。
‒ 起業家や創業間もない方へのアドバイス
起業して間もない方は、大きな夢はあります。でもその時は、1人のバイオリン奏者にすぎません。まだ交響楽団をつくるまで至ってないのだから、まずはバイオリンの技術を高める。それによって、あのバイオリンはいいね!また聞きたいねと言って頂けることが大事。そしてその環境をつくることが大事です。それができたら、1人呼んで、2人呼んで4人の四重奏団をつくる。そこでもいいね!と言われて少しずつ大きくしていく。ある程度大きくなったら、バイオリン・チェロ・コントラバスなどパートごとに技術を高め、それを演奏しながらまとめていく。さらに大きくなったら、自分は演奏しないで“まとめる” ステージにくる。年商規模で言えば10億円くらいでしょうか。そしてその時々によってリーダーシップの取り方は変わります。つまり成長とともにやり方を変えることが大事ですね。そのための勉強はとても大事です。
‒ 昭和真空がこれからも成長していくためには?
「5Gの世界的な普及」「自動車の電動化・自動運転技術の進展」や「コロナ禍の環境下での価値観の変化」の中で、新たな技術革新が進行し、新たな最終消費財が売り出され、新たな電子部品が開発されていきます。この循環の中からお客様が必要としている「種」を探し、「芽」を育成し、「実り」に繋げていきます。その中で、我々の成長に大切である「技術開発力の強化」と従業員の仕事に対する「本気」度を高める施策を実施していきます。
11月3日が誕生日の小俣社長は、令和4年11月3日秋の叙勲で「旭日双光章」を受章されました。国や社会への功労と「真空技術」をキーテクノロジーとして地域経済の活性化にも大きく貢献。SICにおいては、平成13年6月から平成24年6月までの11年間にわたり社外取締役としてインキュベーション事業に多大なるお力添えを頂きました。ちなみに、小俣社長の趣味は絵を描くこと。平成11年当時、友人に誘われて相模原市南区にある「アトリエゆう」という絵画教室に通い始めたのがきっかけ。絵は、経営と違って誰にも文句を言われないのが最大の魅力なのだとか(笑)。
最後に小俣社長の好きな詩をご紹介します。
本気ですれば たいていな事はできる
本気ですれば なんでも面白い
本気でしていると だれかが助けてくれる
人間を幸福にするために
本気ではたらいているものは
みんな幸福で みんなえらい
(後藤静香)
〇 受賞・選定歴 〇
・ 1984年 第1回神奈川工業技術大賞 大賞受賞
( MCFクリスタル周波数調整用真空蒸着装置「SFC-71M」)
・ 1994年 第11回神奈川工業技術開発大賞 奨励賞受賞
( ミニインライン方式高周波・高精度水晶調整装置「SRC-01」)
・ 2006年 経済産業省「明日の日本を支える元気なものづくり中小企業300社」選定
・ 2011年「九都県市のきらりと光る産業技術」受賞
( 水晶デバイス用周波数調整装置)
・ 2014年 第31回神奈川工業技術開発大賞 ビジネス賞受賞
( 水晶振動子用周波数調整装置「SFE-B03」)
・ 2018年 経済産業省「地域未来牽引企業」選定
・ 2021年 経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」選定
代表取締役執行役員社長: 小俣 邦正(おまた くにまさ)
所 在 地: 神奈川県相模原市中央区田名3062-10
従業員数: 197名(2022年3月末現在)
資 本 金: 2,177,105,200円(2022年3月末現在)
事業内容: 水晶デバイス用装置・光学デバイス用装置・
電子デバイス用装置等の開発・製造
URL:
https://www.showashinku.co.jp/