かわらばん

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     地域企業紹介
かわらばん地域版99号 2025年11月

相模螺子株式会社
   お客様のニーズに目を光らせる ものづくり企業
 金属部品の加工や試作・開発、作業工具の製造を行う相模螺子株式会社の久保田浩章社長を、相模原市緑区橋本台の本社に訪ねました。

 金属部品が利用されるのは工業製品にとどまらず、日用品や生活用品まで、ありとあらゆる物に利用されている。強度や耐久性が高く精密加工が施しやすいといった特長があることから、金属部品がその他の部品からなる全体機能の根幹となることが多い。産業界を見渡せば、日本企業が持つ金属加工技術は、精度・品質・信頼性の面で他国に引けを取ることがない強みとなっている。一方で、モノやサービスが多様化し、技術力や製品の品質だけでは市場のニーズに対応できなくなっていることも、世の中の流れとして受け止めざるを得ない。また、中小企業ともなれば、すべての工程を自社で完結することは難しく、同業種・異業種にとらわれない企業間のパートナーシップを形成し、それぞれの強みを持ち寄って市場や顧客の要望に的確に対応していくことが、激しい競争環境の中で浮かび上がる戦略の一つとなり得る。そのような中で、相模螺子は顧客からの信頼を保ち続けながら、活力ある企業風土づくりに取り組んでいる。

 相模螺子の工場内では、最新式の複合加工機や計測機器、さらには時代を感じさせる旋盤などが稼働している。外国人オペレーターも作業をしていて、最近では口コミで留学生が面接に来ることが多くなった。国元はベトナムやミャンマー、カンボジアからの技能実習生で、中には技術・人文知識・国際業務の在留資格(技人国:これまでに技術、または人文知識や国際業務について学んできた知識や培ってきた経験、母国に関する知識と関連性のある業務に従事できる資格)取得者も勤務しているのだ。多くの企業が人材確保に課題を抱えている中で、早くから海外人材を受け入れてきたこともあって、外国人が日本人に技術を教える光景は、相模螺子にとって珍しくなくなったという。会社理念の冒頭には“全従業員の物心両面における幸福を追求する”とあり、“従業員一人ひとりの能力を活かし(伸ばし)、仕事を通じて夢を実現出来る会社を目指す”と宣言されている相模螺子。その宣言が実を結び、2019年には「神奈川がんばる企業」に認定され、2025年には「かながわ健康企業」にも登録された。特に社員の健康維持に積極的に取り組んでいる中、「私自身の健康診断結果は、体重を除けば全て良好です」と笑顔で話す久保田社長。相模螺子は、多様性と高い健康意識が組織の活力を醸成し、高品質、低コスト、短納期のどれも欠かすことがない“顧客への対応力“に直結しているのだ。

 相模螺子は1979年に個人事業として創業、1981年に株式会社となった。創業者は浩章氏の父、隼夫氏(現 代表取締役会長)。ネジの商社からの脱サラで、小学生の頃に機械加工の部品やネジ部品の図面をもって飛び回っている父親の姿は今も久保田社長の目に焼き付いている。部品の販売先から「こんなものはできないか?」との声に誠意をもって応えることで、信頼のおける取引先や協力会社も徐々に増えた。1993年には精密板金加工を行う協力会社を吸収合併し、有限会社相模螺子横山工場を設立し、相模螺子は自社での金属部品加工に対応できるようになり、自動車や産業機械向けのネジやボルト、切削加工部品などの販売を伸ばしていった。久保田社長が製造の現場に入ったのも社内加工体制を整えた頃で、20代半ばで切削技術を身につけた。旋盤やフライス盤、NC加工機の操作や管理方法もさることながら、グラインダーで刃物を研ぎ、その“切れ味”の繊細な違いを体で覚えた。今でもものづくりの現場で、従業員に自ら技術を伝えることができるのは、この20代での経験が根幹となっている。

 2001年、相模螺子が取引していた作業用の工具製造会社の倒産を受け、そのまま会社を引き取ることとなったが、やがて相模螺子の強固な経営基盤となった。当時、バブル崩壊の影響が長引き、まだ国内の経済情勢は暗雲立ち込めている中での決断であったが、当時社長であった隼夫氏の先見の明は言わば “才覚”として、久保田社長の心に刻みこまれている。この頃、久保田社長は取締役に就任し、“経営” について学ぶべく、相模原市の若手経営者が集い、経営力向上を目指す研究・交流団体である「相模原市青年工業経営研究会(以下、青工研)」に入会した。同業者も多い中、競争ではなく共創という世界観は、父隼夫氏が脱サラ仲間と必死に築いてきた不変の信頼関係と重なり、久保田社長の成長につながったという。2011年に青工研の会長となると同時に浩章氏は相模螺子の社長に就任した。42歳という若さながら、さらなる前進に向けた決意をもって、隼夫氏を説得してのことだった。折しも東日本大震災という、日本社会に大きな衝撃と長い影響を与えることとなる歴史的な転機に始まり、やがては世界規模での生活様式と価値観の転換点となる新型コロナウイルスの感染拡大にも直面することとなる。しかし、これまでに築いたパートナー企業に支えられ、また、作業工具の製造が安定していたこともあって、中小製造業としての難局は、大きな混乱を招くことなく乗り越えることができた。

 相模螺子はこれまで堅実な経営を続けてきた。しかし、9月に久保田社長が訪問したベトナムでは新たな試練を予感させる状況があった。以前は日本から製造業が競って進出していたが、今は人材派遣やコンサルティングの企業といったサービス業の進出が増えているのだ。ものづくりを通してどれだけの付加価値が創出できるのか、改めて、そして真摯にその変化に向き合わなければならない。発展、進化していく相模原で、従業員とパートナー企業と共に歩むことが、互いの着実な成長へとつながるのだ。相模螺子は、御用聞きから始まるものづくりの心で、これからも顧客ニーズの奥深くまで目を光らせていく。

代表取締役社長: 久保田浩章(くぼたひろあき)
本社所在地:   相模原市緑区橋本台2-3-6
従業員数:    24 人
事業内容:    金属部品切削加工、作業工具製造
URL: https://www.sagamirasi.co.jp/
久保田社長