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     専門家コラム
かわらばん地域版84号 2023年5月

事業承継のキホン
 今回は事業承継についてお話します。

 まず、事業承継と事業継承、「承継」(しょうけい) と「継承」(けいしょう)。一見して同じような言葉に見えますがどちらが正しいのでしょうか。「継承」とは前任者の地位や身分そのもの(王位継承など)や、前任者が獲得した財産的権利、会社で言えば、経営権など「具体的」なものを受け継ぐのに対し、「承継」は、前任者の代のもの一切を受け継ぐ、というように「継承」よりも更に広く、より抽象的な意味で使われるようです。

 以上を踏まえて、改めて、なぜ会社を次の代に引き継ぐことを事業「承継」と言い表すかといえば、先代が会社に対して有していた権利、義務、財産一切を受け継ぐから、ということになります。事業承継はいわば会社の相続ともいえますが、相続は「被相続人から相続人に対する財産上の権利義務の承継」と定義されることからも、やはり、事業「承継」が正しい表現であるといえます。

 次に、事業承継の中身について深堀していきます。事業承継とは、「会社の経営権、資産」を後継者に引き継ぐことです。「会社の経営権」とは、直接的には会社の社長や取締役会など会社の意思決定、業務遂行権ですが、中小企業においては究極的には株式です。

 なぜならば、中小企業では同族会社や殆ど社長に全株式、それに近い株式が集中しているいわゆる「ワンマン会社」が多くを占めており、株主=社長という図式が当てはまるためです。株式会社を始めとする法人では株式割合を多く占めている株主がいれば社長や取締役の選任、解任を自由に決められるといっても過言ではありません。そのため、中小企業では「会社の経営権」=「株式」といえるのです。

 そして、「資産」です。会社が所有する土地、建物等の不動産を相続するにはどうすればよいでしょうか。それは、会社の全株式を相続すればいいのです。会社が不動産を所有していることと、全株式が不動産を所有していることは同じです。ものすごくシンプルに表すと、株式が不動産を所有しているようなものだからです。したがって、事業承継により後継者が「経営権」=「全株式」を相続すれば、後継者は会社が所有する不動産、そして、不動産に限らず、会社が所有している不動産を相続したのと同じことになるのです。

 ところが、会社が運営するのに必要な不動産は全て会社所有とは限りません。会社代表者が個人的に所有する土地や建物を会社が借りる形で事業を営んでいる例も少なくありません。そのため、会社=株式を相続するだけでは、会社経営を安定して行うことにならない場合もあるのです。なぜならば、会社の敷地や事業所である建物を他の相続人が相続して、会社に対して明渡を求めるという事態も起きかねないからです。このように会社の敷地や事業所が会社代表者の個人資産である場合には、株式とは別に相続しなければならないのです。

 最後に、事業承継にあたって、これまでは経営権や財産、社長の知的財産等、会社のプラス面にスポットを当ててきましたが、当然、会社のマイナス面も考えなければなりません。
事業承継をする時点で会社が借金を抱えていれば、会社を承継したことで借金が消えるわけではありませんから、会社の借金も承継するということになります。そして、会社の借金について社長自身が連帯保証していれば、社長から相続をする時に、この連帯保証している部分も相続することになります(例外については次回以降改めてお話します)。

〇 髙瀬 芳明 〇
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所  代表弁護士
「中小企業の成長は日本の未来を明るくする」「都心と同じサービスをローカル価格で提供する」ことをモットーに、中小企業の課題解決に特化し 全力を注いでおります。特に、M&AやIPO支援までカバーできることが弊所の特徴です。
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所  代表弁護士 髙瀬 芳明