かわらばん地域版85号 2023年7月
事業承継の課題
これまでのお話で、事業承継の手続きを行った方が絶対に良いということはご理解いただけたかと思います。ただ、いざ事業承継に取り組もうとしても、簡単にはいかないことが殆どだと思います。それは、以下のように、事業承継には解決しなければならない多くの課題が存在するためです。
まずはとにかく適任の後継者探しです。もし後継者候補が見つからなければ、第三者への承継、すなわち、M&Aも視野に入れて検討を進める必要があります。
また、経営権=株式の課題もあります。株式は可能な限り後継者候補の方が全株式、もしくは、最低限でも2/3以上の割合の株式を保有しておく必要があります。株式会社の意思決定は基本的に過半数、組織変更や重要事項の決定には2/3以上の議決権が必要とされることが多いためです。もし事業承継対策をしっかり行っておかないと、社長のお子様を後継者として立てる場合、他にご兄弟が存在し相続人が複数になる場合には、相続によって株式が分散し、後継者が会社を承継した後に過半数や2/3以上の議決権を確保できない結果、会社の経営に重大な支障をきたすことがあるためです。そのため、社長が次世代の会社経営を考えるならば、まだまだ健在のうちに後継者に十分な株式を承継できるように綿密に計画を立てておく必要があります。
そして、お金の課題です。
このお金の問題が事業承継の実施にあたり大きな課題となって立ちふさがります。上で株式の承継が必要と述べましたが、株式もれっきとした財産です。もっと言えば、会社の価値そのものであり、一般的には非常に高額な財産です。株式の承継手段としては、大きく分けて、「もらう」「買う」「相続する」がありますが、「もらう」とすれば莫大な贈与税が、「買う」とすれば、高額な買取代金に相当する莫大なお金が、「相続する」のであれば莫大な相続税がかかる可能性があります。つまり、買取資金や納税資金をどこから調達するかという問題が立ちはだかります。もちろん、根本的に株式の価値を下げる、買主を個人ではなく法人にする等の回避策もありますが、法律や税金の知識、ノウハウがないと安心してこれらの回避策を実行することは困難といってよいでしょう。
このお金の問題に関連することでもありますが、前回述べたように個人保証の問題も事業承継の大きな課題です。せっかく熱意も才能もあるのに先代の保証債務の負担が重くのしかかるのでは事業承継をしようにも躊躇してしまうでしょう。これまでは銀行は後継者の信用度に不安があるため、個人保証の解除に消極的でした。しかし近年になって「経営者保証ガイドライン」が策定され、会社の経営状況によっては個人保証の解除に応じる場合や、解除できない理由を具体的に説明してもらえるケースが増えています。「経営者保証ガイドライン」には強制力はありませんが、一昔前に比べると事業承継へのハードルが下がってきた印象があります。
このように、事業承継には大きく分けて「後継者候補者をどうするのか?」「対策に必要な資金をどうするのか?」「個人保証をどうするのか?」という課題があり、育成ノウハウ、法律税金の知識や能力、交渉技術等、多岐にわたる専門技術が必要となります。
また、後継者が見つからない場合、M&Aを利用する、廃業する等、様々な選択肢が考えられます。どの選択肢を取ってもそれぞれ課題があり、トラブルや面倒を出来るだけ回避するためには、どうしても専門知識が必要になってきます。特に事業承継する場合は、数年単位の中期に渡って、いかに綿密に準備出来るかが事業承継の結果を大きく左右するものです。準備に当たって、法律や税金、後継者の育成のノウハウを持った専門家に早めに相談することが事業承継の成功への近道と言えるでしょう。
〇 髙瀬 芳明 〇
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所 代表弁護士
「中小企業の成長は日本の未来を明るくする」「都心と同じサービスをローカル価格で提供する」ことをモットーに、中小企業の課題解決に特化し 全力を注いでおります。特に、M&AやIPO支援までカバーできることが弊所の特徴です。
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所 代表弁護士 髙瀬 芳明