かわらばん

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     専門家コラム
かわらばん地域版92号 2024年9月

デジタル活用によって強くなる会社の作り方
 現在、多くの中小企業が直面する経営課題は、図表に示す通り、従来のアナログ社会の特性に起因しています。アナログでは、紙ベースの業務や属人化が定着し、業務の「見える化」が進んでいないため、改善の余地が見出しにくいのです。このため、経営者は、まず、アナログからデジタルへの転換を目指す戦略を立てることが重要です。

【中小・中堅企業が目指すべき方向性】
 中小・中堅企業がデジタル技術を活用して、経営課題の根本的な解決を図るためには、以下のポイントが重要です。

1.データドリブン経営
 「データドリブン経営」とは、データに基づいて経営判断を行うことです。例えば、三重県伊勢市にある老舗飲食店「ゑびや」は、勘や経験に頼る経営から、天気や気温、メニューごとの売上などのデータを収集し、それをもとに来客数や売上を予測しました。その結果、売上が5 倍、利益が50 倍になるという成果を達成しました。データを使って経営を行うことで、勘や経験に頼らない、より精度の高い意思決定が可能になるのです。
2.業務の見える化
 「業務の見える化」とは、業務プロセスをデジタル技術によって可視化し、問題点を発見しやすくすることです。福島県の精密機械部品メーカー「マツモトプレシジョン」では、工場内の各プロセスのデジタル化によって、どこに無駄があるのかを把握できるようにしました。
 その結果、作業効率が向上し、従業員の労働環境も改善しました。見える化によって、経営者は問題を迅速に特定し、解決策を講じることができるようになります。
3.顧客体験の向上
 「顧客体験の向上」とは、顧客が製品やサービスを利用する際に感じる満足度を高めることです。これには、デジタル技術を活用したパーソナライズされたサービスが効果的です。ゑびやでは、来店客のデータを活用して、その日の最適なメニューを提案するなど、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供することで顧客満足度を大幅に向上させました。これにより、リピーターが増え、売上の安定にもつながりました。

【DX推進に向けた短期的対応と中長期的戦略】
 DX 推進には、短期的な対応と中長期的な戦略のバランスが必要です。短期的には、まずアナログ社会からの脱却を図るために、業務の「見える化」やクラウドサービス、生成AI の導入を進め、効率化を図ります。これにより、経営課題の迅速な解決が期待できます。

 中長期的には、企業全体のデジタル文化の醸成とデジタル人材の育成が求められます。これにより、デジタル社会への転換が進み、経営者がデジタル技術を活用して競争力を強化し、持続的な成長を実現することができます。また、デジタル社会においては、新たなビジネスモデルの開発やサービスの創出が、企業の成長をさらに加速させる重要な要素となります。

 次回は、実際のDX の取組事例を基にDX推進の課題、進め方のポイントを探っていきます。

【参考文献】経済産業省、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き2.1」

〇 小川 直 〇
一般社団法人首都圏産業活性化協会 デジタルビジネスプロデューサー
小川経営研究所 代表 
中小企業診断士、ITコーディネータ

大手電機メーカーにて、研究開発、システムエンジニア、営業マーケティングを経て独立。中小企業診断士として現場に定着するまでの継続支援をモットーに、営業力向上の仕組みづくり、IT導入による業務改善、Web活用による集客力アップの提案を行っている。
一般社団法人地域マーケティング推進協議会理事、平成29年度中小企業経営診断シンポジウム第三分科会最優秀賞受賞。
一般社団法人首都圏産業活性化協会 デジタルビジネスプロデューサー  小川 直樹 氏