私の研究室では「パワーエレクトロニクス」という、毎日の生活で欠かすことのできない電気エネルギーをコントロールする技術を研究しています。
エアコンや冷蔵庫、蛍光灯などの製品で「インバータ」という言葉を耳にしたことがあると思います。インバータとは電気を直流から交流に変換する機器で、たとえばエアコンや冷蔵庫
ではモータの回転速度を調節して、消費電力を抑制します。蛍光灯では目障りなちらつきを抑えるなど、現在の家電製品には欠かせない存在です。研究室では、このインバータを代表とす
る「パワーエレクトロニクス」と呼ばれる分野の応用技術の研究に取り組んでいます。
現在もっとも力をいれているのが、より信頼性、省エネルギー、コストの面で優れている『交流モータの速度センサレス制御』の開発です。例えば、エアコンや冷蔵庫には、冷媒を圧
縮して循環させるコンプレッサという装置が使われています。これを動かすための動力源として、最近では小型で効率のよい永久磁石同期モータが広く使われていますが、このモータを安定に効率よく運転するには、基本的には回転数や磁石の回転位置を検出するセンサが不可欠です。ところがモータが内部に一体化されているコンプレッサではこのようなセンサを設置できません。また、ファンやポンプを運転する場合にも、速度/位置センサを省略すると大幅なコストダウンに繋がります。
このような背景のもと、多くのメーカや研究機関で位置/速度センサを使わないセンサレス方式が各種開発され、実用化されています。この方式では、モータの電圧と電流の関係から回転角度・回転速度を推定するため、モータのパラメータ(巻線抵抗、インダクタンス、逆起電力定数)が変化すると回転角度や速度の推定値に誤差を生じます。本研究室では、オブザーバを用いた位置/速度推定法について詳細な解析を行い、パラメータのオンライン同定法も含め、広い速度および負荷の範囲で安定に動作できる『ACFO速度センサレス制御』を実現しました。特に「低速回転でのセンサレス運転は難しい」とされ、速度比(最高回転数/最低回転数)で50程度が標準的な状況の中で、300程度の速度比を実現しています。
交流モータとして最も一般的な誘導電動機の速度センサレス制御についても多くのノウハウと実績を持っており、各種パラメータのオンライン同定はもとより、相電流が零付近でインバータの電圧制御誤差が大きくなるのを防止する相電流非零制御、磁束誤差をフィードバックするオブザーバ構成による低速領域の性能改善などが代表的のものです。この結果、可逆運転時にも零周波数を安定に通過できるなど、従来は困難とされてきた運転を可能としています。
パワーエレクトロニクスの研究室であることから、15年ほど前から、ソーラーカーのレースにも参加しています。秋田県大潟村で開催されるWSR(ワールド・ソーラーカー・ラリー)には毎年必ず参加しており、オーストラリアのダーウィンとアデレードの間約3,000kmを走行するWSC(ワールド・ソーラー・チャレンジ)にもこれまで4回(1999、2001、2003、2005)参加しています。本学のソーラーカー(AGU Aglaia)の走行距離もトータルで3万kmは確実にオーバーしています。ソーラーカーではモータ制御はもとより、太陽電池の最適動作点追従制御、リチウムイオン電池の残量管理などの技術も必要であり、学生にとって色々なことを経験するよい機会となっています。
【お問い合わせ先】
分析技術相談について:
青山学院大学 理工学部附置機器分析センター ☎042-759-6240
共同研究について:
青山学院大学 研究支援ユニット課長 杉野 郡二 ☎042-759-6056
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