かわらばん入居版86号 2011年6月
中嶋社長のつぶやき
 「高信頼性組織」
「東日本大震災」から、4ヶ月が経とうとしています。未だ福島第一原子力発電所事故収束の展望が見えません。福島県及び周辺地域への更なる被害拡大が心配です。1つの失敗やミスが、人命に関わる事象を発生させる。社会に大きな影響を与える。その結果、企業経営を危うくする。そのような「失敗は許されない仕事」があります。今月は、「高信頼性組織(HRO:High Reliability Organization)」について、ご紹介いたします。
「高信頼性組織」とは、「失敗が許されないという過酷な条件下で常に活動しながらも、事故発生件数を抑制して、高い成果をあげている組織のこと」を言います。 「高信頼性組織」の
具体例としては、航空管制システム、原子力発電所、送電所、石油化学プラント、救急医療センターなどが挙げられます。また、ISP(Internet Service Provider)に代表される情報通信業界も高信頼性が求められる組織であるといえます。
「高信頼性組織」の特性について、明治大学経営学部教授の中西晶氏は、不測の事態の予防力①②③、不測の事態が起こった場合の解決力④⑤と大きく2つに分けて説明しています。
①ささいな徴候も報告する「正直さ」
「ミスや失敗は必ず報告し、それらを詳細に検討して教訓を引き出すように努めている。つまり、『失敗から学ぶ』ということを重視している。」
②念には念を入れて確認する「慎重さ」
「基本的に高信頼性組織は、良く言えば慎重、悪く言えば臆病である。」「何よりも安全を重視する。そして、それについては、組織の全員が了解している。」「もし不測の事態が発生し
そうな兆候が見られれば、最悪の場合を考えて、最善の努力をする覚悟を決める。」
③オペレーションに気を配る「鋭敏さ」
「常にコミュニケーションを絶やさず、オペレーションが実際に行われている現場に注意を集中する。」「刻々と変化する現場のオペレーションの全体の最新状況を常に把握するために情
報を共有し、『全体像』を描く。」「現場に敏感になる」ということだけではなく「現場が敏感になる」ということでもある。
④「何」をやるべきかを認識したうえでの「機敏さ」
「不幸にして不測の事態が起こってしまった場合、高信頼性組織では予測から対応へと視点を転換し、その影響を軽減し拡大を防止するにはどうしたらよいかに注目する。」「高信頼性組
織では、その場にいるメンバーが事前には想定しなかったことも含めて幅広い視点でやるべきことを考え、自律的に行動する。考えと行動は同時進行し、即興的な対応が行われ、リアルタイムの迅速な学習が行われる。」
⑤ 誰がやるべきかを知った上での「柔軟さ」
「高信頼性組織では、不測の事態が発生した場合、その対応に最も適切な知識・能力を持った人間に一時的に意思決定の権限を委譲することがある。」「個々の問題を解決するのにふさわ
しい能力を持った人間やチームに、意思決定の権限が適切に『移動』することである。このことが、柔軟性だけでなく秩序を促す。」としています。
また「高信頼性組織」の多様な活動の中核にあるのが、「マインド」と言う考え方です。「マインドが十分に備わっていなければ、一つひとつの活動が全体としての信頼性の高さにまでつながらない。」「マインドフル」とは、「わずかな兆しにもよく気が付き、危機につながりそうな失敗を発見し修正する高い能力を持つ状態のこと」を意味します。この反対は「マインドレス」です。これは「状況の変化に気づかない、問題を突き止めるのが遅い、マニュアルどおりにしかオペレーションを進められないなどの傾向」を意味します。
このように「高信頼性組織」を整理してみると、改めて何か特別なことを求めているわけではなさそうです。地道で慎重な対応が事故や失敗を防ぎ、また、万一事故や失敗が起こった場
合の素早い復旧を可能にするといえます。
そして「高信頼性組織」から形成される「高信頼」が、企業競争力の源泉であり、ベーシックな能力のひとつかもしれません。
【参考・引用】
『高信頼性組織の条件―不測の事態を防ぐマネジメント』
中西晶(2007.1)生産性出版