かわらばん

かわらばん

     社長のコラム
かわらばん入居版102号 2012年10月

中嶋社長のつぶやき
   ノーベル賞・山中伸弥教授から学ぶ「3つの考え方」
 2012年10月8日。2012年のノーベル生理学・医学賞が発表され、京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長(50)が受賞した。授賞理由は、「細胞や器官の進化に関する我々の理解に革命を起こした」と説明された。「山中教授は、06年に世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作った。iPS細胞は受精卵のように体のどんな部分にも再び育つ。皮膚などにいったん変化した細胞が、生まれた頃に逆戻りするという発見は生物学の常識を覆した。細胞の時計の針を巻き戻せることを示した「初期化(リプログラミング)」と呼ぶ研究成果は「まるでタイムマシン」と世界を驚かせた。生命の萌芽とされる受精卵を壊して作る胚性幹細胞(ES細胞)と違い、倫理面の問題からも特に欧米社会で高く評価された。」

 山中教授は、記者会見で「心の底から思ったのは、名目上は山中伸弥ともう一人の受賞になっているが、受賞できたのは、日本という国に支えられたから。まさにこれは日本という国が受賞した賞だと感じている。感想を一言でいうと感謝しかない」「一日も早く医学応用しないといけないという気持ちでいっぱいだ」と語った。熱い心が伝わるコメントに感動した。私は、山中教授のインタビューへの真摯な態度、明かされた研究のエピソードなど山中教授の個人的な魅力を感じ、3つの優れた考え方に共感した。以下、紹介したい。

1.薬理学の実験で学んだ3つの教訓。①科学は驚きに満ちている。「科学の面白さは、予想通りの結果にはならない。」②新薬、新治療法では、予想外のことが起きる。「必ず事前に動物実験を行って、安全性や効果を十分確かめておかなければならない。」③先生のいうことをあまり信じてはならない。「今の教科書にはAはBであると書いてあっても、10年後の教科書にはAはCであると書いてあるというのは科学の世界ではしばしばあります。先生の考え方をそのまま信じ込まず、真っ白な気持ちで現象に向きあうこと。先入観を持たないこと。」

2. 成功する秘訣VW。「 Vision」と「Work hard」「研究者として成功する秘訣はVWだ。VWさえ実行すれば、君たちは必ず成功する。研究者にとってだけでなく人生にとっても大切なのはVWだ。VWは魔法の言葉だ。」グラッドストーン研究所のロバート・メイリー所長の教えだ。長期の目標とハードワーク。研究者として、人間として成功するには、どちらも必要である。

3.「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじ さいおうがうま)山中教授は、好きな言葉の一つとして紹介している。「昔、中国北方の塞(とりで)近くに住む占いの巧みな老人(塞翁)の馬が、胡の地方に逃げ、人々が気の毒がると、老人は「そのうちに福が来る」と言った。やがて、その馬は胡の駿馬を連れて戻ってきた。人々が祝うと、今度は「これは不幸の元になるだろう」と言った。すると胡の馬に乗った老人の息子は、落馬して足の骨を折ってしまった。人々がそれを見舞うと、老人は「これが幸福の基になるだろう」と言った。一年後、胡軍が攻め込んできて戦争となり若者たちはほとんどが戦死した。しかし足を折った老人の息子は、兵役を免れたため、戦死しなくて済んだという故事に基づく。」(故事ことわざ辞典)「人間万事塞翁が馬」の「人間(じんかん)」とは日本で言う人間(にんげん)の事ではなく、世間(せけん)。「塞翁」というのは、城塞に住んでいる「翁(おきな)=老人」という意味。「城塞に住む老人の馬がもたらした運命は、福から禍(わざわい)へ、また禍(わざわい)から福へと人生に変化をもたらした。まったく禍福というのは予測できないものである。」という事。山中教授の人生も、「人間万事塞翁が馬」と思える出来事の連続である。常に、ポジティブな行動・思考と危機管理のバランスをとっている。

 これらの考え方を基本にして、失敗はあったけれど、教えを守り、研究の喜びを知り、努力を重ね、決してあきらめず、良く考え、ビジョンを掲げ、協力してくれる人を作り、巻き込み、広い視野を持ち、ハードワークに耐え、一歩一歩成果を積み上げていく。学ぶべき考え方である。

<参考>
・NHKスペシャル「山中伸弥 iPS細胞革命」(10月21日放送)
・You Tube・教育イベント高校生特別授業「京都賞 高校フォーラム 」
 (2010年11月)
・演題「人間万事塞翁が馬」主催:財団法人稲盛財団、京都大学
・「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」
  山中伸弥著 講談社 2012/10
・日本経済新聞 2012/10/8 WEB版