かわらばん

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     社長のコラム
かわらばん入居版108号 2013年5月

中嶋社長のつぶやき No.27
   最近話題の「海賊とよばれた男」
 今月は、最近話題になっている本のご紹介をいたします。
実は、尊敬する複数の皆さんからの推薦がありましたので、「海賊とよばれた男」を読んでみました。出光興産の創業者である出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベルで、全国の書店員が「一番売りたい本」、2013 年本屋大賞に選ばれた本です。

 まず、あらすじです。異端の石油会社である「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかも失い残ったのは借金のみ。さらに大手の石油会社から排斥され、売る油もない。鐵造は、多くの企業が人員整理を行う中、従業員の首をきらないことを宣言。仕事がないため自宅待機を余儀なくされていた従業員にさえ、戦前に集めていた骨董品などを売って給料を払い続ける。その後、ラジオの修理などの多様な仕事を探し出し、旧海軍の残油集めなどで糊口をしのぎながら、たくましく再生していく。

 国岡鐵造( 出光佐三がモデル) は、福岡県宗像郡赤間村( 現宗像市) で、染め物行を営む家に生まれた。神戸高等商業を卒業した後に、当時の新興商社である鈴木商店の採用を蹴って、神戸で小麦粉と石油を扱う個人経営の酒井商店に入社する。同級生には馬鹿にされながらも、来たる石油時代を予見しながら、この会社で会社経営のノウハウを得る。

 その後、淡路島の資産家である日田重太郎から、全面的な信頼関係のもと、多額の開業資金を得て九州の門司で「国岡商店」を旗揚げする。機械油の成分を用途別に提案したり、灯油から軽油利用への提案をしたり、同業者との差別化を進めた。さらに、陸では同業者の縄張りがあり自由に油が売れないために、海上で漁船を待ち構えて安く油を販売することも考え実行した。これが本のタイトルにもなっている海賊といわれている理由である。

 この作品を読んで、二つのことを学習しました。
 ひとつは、「人」を大切にした主人公の考え方です。鐵造は、敗戦後の混乱の中で、資産の大半を失い、主力商品の石油を取り扱うことが出来ず、会社の存続の危機の中でも、「わが社には、なによりも素晴らしい財産が残っている。一千名にものぼる店員たちだ。彼らこそ、国岡商店の最高の資材であり財産である。」と、社員を守り通した。大切にした「店員」だからこそ、店主の心意気を感じ、不可能を可能にする働きが生まれる。復興は、この「店員」の存在があってこそである。

 次に、経営理念とビジョンを大切にした国岡鐵造の事業を構想する「力」である。「思い」を強く語ることで、取り巻く人たちを動かしてゆく。事業を始めるにあたっては、資産家の日田重太郎は、自分の不動産を売却し、開業資金を提供する。日田の資金提供者としての心意気の大きさがすごい。この後も、タンカーの建造、イランとの石油取引、国際石油資本との戦いなど、スケールの大きなビジネスを展開する。そして、これらを資金面で支える銀行との関係性を強める。数々の困難な局面で、支店長や頭取の心を動かし、会社の危機を乗り越え、事業拡大への支援を取り付ける。たくさんの協力者が現れ、構想を実現していく。

 本屋大賞を選定した書店員のコメントとして、「日本にこのような血のたぎる男がいたのかと思うと身震いする」「国岡鐡造の熱い生涯に心打たれた」「日本中の大人の人が主人公の鐡造みたいな人間だったら、日本も変わるんじゃないかなと本気で思った」「日本人が自信を無くしている今こそ読むべき」などが紹介されていた。「書店員が、いちばん売りたい本」は、困難を乗り越えるパワーを貰える本です。お勧め出来る作品です。

参考・「海賊と呼ばれる男」 上・下 百田尚樹著 講談社 2012/7