かわらばん

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かわらばん入居版54号 2008年10月

職業能力開発総合大学校 Polytechnic University
   建築システム工学科 環境工学・設備工学研究室 准教授 橋本 幸博 氏
 当研究室では、建築環境工学・設備工学に関する様々な研究をしています。私は以前空調設備を設計・施工する企業に長年在職していましたので、空調システムに関する研究をしていますが、それ以外に都市の熱環境や建築の熱的影響を改善する屋上緑化に関する研究、オフィスワーカーのストレス緩和に影響する室内緑化に関する研究なども手がけています。

1)置換換気空調システムに関する研究
 北欧で盛んに行われている換気方式で、床近くの壁面から室温よりやや低温の空気を室内に低速で給気して、反対側の天井近くの壁面から排気する方法を置換換気空調システムといいます。室内にある人体や機器などの発熱により上昇気流が発生するので、温度成層により下から上に向かってピストンフローが形成されることから、換気効率が高く、熱的快適性に優れ、省エネルギー性のある空調システムが実現できます。置換換気は工場や空港のロビーなどの大空間で特に効果的ですが、当研究室ではオフィスをモデルにした空間を対象として、実験とCFD(数値流体力学)により、置換換気空調システムの熱的快適性と換気効率に関するパラメトリックな解析をしています。

2)屋上緑化の熱的効果に関する研究
 屋上緑化は植栽により都市の表面温度を低減して、ヒートアイランド現象を緩和する効果が期待できるだけでなく、建物の最上階の空調熱負荷を軽減する効果もあります。当校の1号館屋上に薄層土壌による屋上緑化を設置して、土中温度や水分量などを計測することにより、土壌の種類による比較実測をしながら、建物に対する熱的影響を分析しています。屋上緑化の土壌は、雨水を蓄えて、日射
により蒸発するというメカニズムを有することで、気化熱による冷却効果を得ています。いわば、「濡れた断熱材」で、土壌が十分に保水している場合には水平面日射量の70%程度をキャンセルできる効果があります。既存の建物に施工された屋上緑化の熱的性能の調査も行っています。

3)室内緑化によるオフィスワーカーのストレス緩和に関する研究
 森林浴や園芸療法に見られるように、植物には人間のストレスを緩和する効果があります。室内に緑化を施したときに、どのような植物量や配置を与えると、オフィスワーカーのストレス緩和に効果的で、知的生産性向上効果が期待できるか、脈拍数などの生理的実験とSD法やCVMなどのアンケートによる心理的実験によって調査しています。このような被験者実験はバイアス(偏り)が混入しやすいので、それを避けるための手法を検討しています。今後は、実際のオフィスで適正な植物量に関す
る被験者実験をしようと考えています。