かわらばん

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かわらばん地域版5号 2009年11月

企業をサポートし隊No.5 中小企業のカイゼン支援活動
   最終回:徹底的なムダの排除 株式会社カイゼン・マイスター 代表取締役社長 中小企業診断士・法政大学大学院客員教授 小森 治
 企業はまさに生き物であり、人間の体に例えることが出来る。人間の死は心臓が停止した時であるが、企業も例え決算は黒字でも資金という血液の循環が止まれば倒産となる。従って不況の現在こそ、資金の循環が速い企業体質であること、人間の体に例えると、血の巡りの良い健康体であることが生き残りの条件である。

○財務諸表では見えないことを現場で見る
 財務諸表というのは、あくまでも過去の結果を示すものであり、リアルタイムの現実を表すものではない。しかも損益計算書だけを見ておられる経営者が多いが、次のような落とし穴がある。即ち在
庫をいくらため込んでも会計上の勘定科目は「棚卸資産」であり、損益計算書(P/L)上損失とはならない。
 後に述べるように、例えそれが不良資産になっても損失計上するまでに相当期間の時差があるため、危機感を感じないのである。
 せいぜい金利負担が増えるぐらいにしか考えておられない方が多い。
 しかし現場をよく見ると余分な中間在庫を持つために、次のような現実に遭遇する。

*収容箱(パレット)の余分は追加製作
*余分なスペースの確保(倉庫を借りている場合もある)
*余分な運搬を繰り返している
*在庫管理のための余分な間接人員を必要とする
*品質の劣化(錆などの発生)による手直しの余分な工数
*見込み生産で作った完成品、半製品で売れなくなった死蔵在庫
*余分に買いすぎた部品・資材で売れなくなった死蔵在庫

などであるが、これらは除却処分されて始めて損失計上され損益計算書に現れる。この場合でもなかなか迅速に処分されずに長い間資産に計上されているケースが多い。
 在庫のムダは、このように損益計算書に現れるまでに時間がかかる仕組みになっている。
 しかも、在庫は資金を寝かせていることによって、血液(資金)の循環を悪化させている元凶である。貸借対照表の左側が膨らんでいわばメタボ体質になっているが、損益計算書は一切警告を発しない点が問題なのである。キャッシュフロー計算書をよく見ると見えてくるが、これでさえ月単位、
期単位で時差を置いた事後で無いと分からない。リアルタイムでの問題を把握するためには、現場を見るしかないわけで、「現地現物」が重要な所以である。

○「自分で考える」社員の育成
 昭和20年代後半、アメリカのGMが年間300万台生産していた時代にトヨタの生産台数はわずか年間1万数千台程度で、圧倒的な資金不足の中では、在庫を持って資金を寝かせる余裕が無いため「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」「ジャストインタイム」で車を作るよう当時の豊田喜一郎社長が言い出されたことである。その課題に対して長い間思考と実験を続けた結果、ついにTPS(トヨ
タ生産方式)として具現化されたのが大野耐一さん(後の副社長)である。従って、TPSは、本来経営資源の乏しい中小企業に適した多種少量生産の考え方なのである。
 一方、現実には本来受注生産であるものをリードタイムが長いために見込み生産をしたり、段取り時間が長くかかるため受注数よりも多めに作って余分な在庫を持っているケースがある。これらは作りすぎのムダであるだけでなく、売れなければ除却処分して損失処理をしなければなりません。
 見込み生産をやめて「限りなく受注生産に近づける」には、大ロット生産ではなく小ロット生産で頻繁に切り替えをやり、リードタイムを短縮しなければなりません。
 そのためには、現在かかっている段取り時間の圧倒的な短縮が必要です。そこが「知恵と工夫」の出しどころですが、段取り時間短縮には共通の視点もあり、例えば「内段取りの外段取り化」とか
「調整作業の排除」「ネジを使わない締め付けの工夫」などがあります。
 例えば外段取りとは、機械を止めてから次の段取りの準備をするのでなく、前のロットの加工中に次の型・治具などをすぐワンタッチで切り替えられるようにすぐ横で準備をしておくことです。
 いずれにしても方法論よりも大事なことは、目指す「あるべき姿」(例えば、限りなく受注生産に近づけるなど)を描きそれと現実とのギャップを明確にして、そのギャップを埋めるカイゼン活動に挑戦することである。
 その活動を進める上で、全従業員が「考える社員」になればカイゼンの効果が高まることは、私どものクライアントでも見ることが出来ます。
 先日のNHKのTVでアナウンサーが「楽天がなぜ強くなったのか」と野村監督に質問していたが「選手が皆自分で考えるようになったから」と答えたのが印象に残っている。