かわらばん

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かわらばん入居版101号 2012年9月

中嶋社長のつぶやき
   「稲盛経営12ヶ条」
 2012年9月19日。日本航空株式会社が、東京証券取引所に再上場した。2010年1月会社更生法申請から2年7か月。スピード再生である。

 本年6月に、テレビ東京の「カンブリア宮殿」300回記念の放送を、ご覧になった方が多いのではないでしょうか? メインゲストは、日本航空・名誉会長の稲盛和夫さん。鹿児島県出身。1959年社員8人で京都セラミツク(現京セラ)を設立。10年後に株式上場。1984年には第二電電(DDI)を設立(後にケイディディと合併し、今日のKDDIとなる)。2010年1月に日本航空の代表取締役会長として日航再建に取り組む。

 日本航空の再建にあたっては、人員削減、給与減額、銀行融資の債務免除など、力技で、「血」を流した改革(表1)を経て実現されたもので、いろいろな評価はあると思います。しかし、稲盛さんは、たった2年で、会社更生法適用となった企業をよみがえらせたわけですから、私は「偉大な経営者」の一人であると言って良いのではないかと思っています。
 この番組で、強調されていたフレーズは、「売上げを最大に、経費を最小に。」これを実現するために、■京セラ フィロソフィ・社員の意識改革のための1冊。JALフィロソフィを作成。全社員が持つ。■アメーバ経営・社内を小さなグループに分け、そのひとつひとつに採算を採らせる。
■部門別採算制度を導入・社内を670ものグループの分け、収支を管理。■徹底した節約術・削減されたコストは1,100億円。数々の多様な施策を実行したことを紹介していた。

 私は、改めて経営者としての稲盛和夫さんと「稲盛経営」に、非常に関心を持ってしまいました。稲盛経営は、「フィロソフィ」を常に経営の基礎においています。人として生きる基本的な考え方です。まさに「経営哲学」です。いろいろな出版物などで、紹介されていますが、より具体的な考え方を文章にしたものに「稲盛経営12ヶ条」があります。これについて、少しご紹介します。(表2)
 この「稲盛経営12ヶ条」は、大事な順番に書かれているとのことです。最初の第1条、つまり一番大事な条件として挙げられているのが、「事業の目的、意義を明確にする。」です。「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる。」と言う意味です。事業の目的、意義を明確にするとは、経営理念を打ち立てることであり、それが公明正大で大義名分のある高い目的であれということは、経営の目的が利己的な目的ではなく、世のため人のためになるような利他的な目的をたてなさいということです。
 経営をしていくには経営者自身の発奮、従業員のモチベーションの高まり、周りのみなさんからの協力・応援が必要となってきます。世のため人のためという利他的な目的であれば周りの皆も協力してくれますが、利己的な目的であればそれは望めません。
 また、企業がなぜ利益を必要とするのか、「利益は社会的貢献の原資である」と言い切るためには、その会社の目的が公明正大で大義名分のある高い目的である必要があります。

 村上龍さんは、「カンブリア宮殿」編集後記で、「300回という節目の収録で稲盛さんとお話しできたのは、幸運だった。」「オーラがすごかった。『神様』と話しているような気がしてきた。日本で、最後に残った経営の神様だ。」「ただし、JALが本当に再建できたのかどうか、現時点では私にはわからない。業績改善のおもな要因はコストカットであり、成長に転ずるには乗客や路線を増やさなければならない。巨大企業の体質がたった2年で変わるのかという疑問も残る。サバイバルは本物なのか、答えが出るのは5年後だろう。」

 「答えが出るのは、5年後」。まさに、その通りである。長い期間、企業が存続することは、簡単なことではない。同じことを、同じようにやっていたのでは、顧客の変化に対応した価値提供ができないので、売り上げが立たない。収益も減少する。
 このような時に、将来を担保するものが、「経営哲学」であり、稲盛「フィロソフィ」ではないだろうか。「公明正大」「大義名分」「高い目的」「社員との理念共有」「強く維持した願望」。「利己」ではなく、「利他」。これらの考え方から、世のためになること、お客様のためになることを追及することが可能になる。「フィロソフィ」を定着させるには、パワーと時間が必要であり、容易なことではない。
しかし、経営陣と社員のなかに、「フィロソフィ」が根付いていれば、根が張っていれば、幹が元気で、枝や葉は瑞々しい姿となる。
5年後、10年後の未来は、この「フィロソフィ」が経営者と社員の「腑に落ちた」状態であれば、きれいな花が咲き続けているだろう。

http://www.kyocera.co.jp/inamori/index.html 
  京セラ・稲盛和夫オフィシャルサイト
http://thinkweb.co.jp/blog/?p=5821 
  ブログ「儲けの秘伝を伝授します」小椋 俊秀氏
「成功への情熱-PASSION」稲盛和夫 PHP文庫 2001/1
「アメーバ経営」 稲盛和夫 日経ビジネス人文庫 2010/10
「人を生かす 稲盛和夫の経営塾」
         稲盛和夫 日経ビジネス人文庫 2012/2

(表2) 稲盛経営12ヵ条
1 事業の目的、意義を明確にする。  公明正大で大義名分のある高い目的を立てる。
2 具体的な目標を立てる。 立てた目標は常に社員と共有する。
3 強烈な願望を心に抱く。 潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと。
4 誰にも負けない努力をする。 地味な仕事を一歩一歩堅実に、弛まぬ努力を続ける。
5 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える。 入るを量って、出ずるを制する。利益を追うのではない。利益は後からついてくる。
6 値決めは経営 値決めはトップの仕事。 お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点である。
7 経営は強い意志で決まる。 経営には、岩をもうがつ強い意志が必要。
8 燃える闘魂。 経営にはいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要。
9 勇気を持って事に当たる。 卑怯な振る舞いがあってはならない。
10 常に創造的な仕事をする。 今日よりは明日、明日よりは明後日と、常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる。
11 思いやりの心で誠実に。 商いには相手がある。相手を含めて、ハッピーであること。皆が喜ぶこと。
12 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で。
表1) JAL再建のために行われたこと