かわらばん

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かわらばん地域版39号 2015年11月

アイシンク株式会社
   プロジェクトマネージメントで社会に貢献する
 プロジェクトマネージメントに関わるコンサルティング、研修、PMP試験対策講座などを行うアイシンク株式会社の伊藤健太郎社長を西新宿にある本社事務所に訪ねました。アイシンク社はさがみはら産業創造センターが2000年にオープンさせたSIC-1に最初に入居した企業の一社で事業の拡大とともにポストインキュベータであるSIC-2に移転し、その後、現在の地に本社を移している。同社から分社した有限会社G-thinkは今もSIC-2に入居し、セミナーの教材制作や受講者のフォローアップなどの業務を担っている。

 伊藤さんは九州の福岡市に生まれ、地元の高校を経て、文系で就職に苦労した父親の助言もあり九州大学工学部に進学、大学院を修了し日本鋼管(現JFEエンジニアリング)に1986年に就職する。日本鋼管では横浜市の鶴見にあった事業所で船舶の大型ディーゼルエンジン製造に携わる。本当は大規模工場やプラント建設に関わるエンジニアリング部門を希望したが「入社試験の時にエンジニアリングを゛エンジ゛と省略して伝えたためエンジン製造に配属されてしまいました」と伊藤さんは当時を思い出して苦笑する。職場で最年少だった伊藤さんは父親のような年齢の現場のベテランを相手に何でもやったそうだ。会社の寮があった横浜の希望ヶ丘から始発電車に飛び乗り朝6時から夜の11時頃まで働きづめの日々だった。この部署で3年半を過ごすことになる。しかし、エンジニアリングの仕事がしたいとの思いは捨てがたくエンジニアリングに不可欠なプロジェクトマネージメントを学ぶため退職し、留学しようかとも考えたそうだ。そんな頃、総合エンジニアリング事業部環境エンジニアリング部へ移動することになる。最初の大きな仕事は神奈川県大和市の清掃工場の建設。その次が台湾台中市に建設される清掃工場でこれは日本鋼管の環境プラント事業部初の海外プロジェクトだったそうだ。伊藤さん35歳の時である。伊藤さんは清掃工場の試運転を担当し、その後のメンテナンスも任されて計4年間このプロジェクトに携わっている。このプロジェクトで出会った一人のエンジニアが伊藤さんの人生を変えることになる。

 台中市の清掃工場は日本鋼管が建設し、フランスのVivendi社がオペレーションを担当することになっていた。準備のためフランスからやってきたVivendi社のスタッフは伊藤さんと同年代のエンジニアのマルサイスさんたった一人。新聞広告を使ってマネージャーを採用することから始めたそうだ。日本企業なら本社から何名か派遣させ、現地スタッフの採用も人材紹介企業を使ってやるだろう。マルサイスさんは一人で台湾にやってきて、人を雇い、組織を作り、清掃工場を稼働させるまでをプロジェクトマネージメンの手法を使って、やり遂げていった。伊藤さんはそれを間近に見て、驚くとともに「プロジェクトを管理する能力や手法を身につけないと世界で戦えない」と強く思ったそうだ。

 そして、2000年3月に日本鋼管を退職し、4月にSIC-1に入居、5月に会社を設立している。SIC-1が建設中だったため建設現場事務所で行った入居面接を伊藤さんは鮮明に覚えているそうだ。
 会社設立当初は教材開発に追われていたし、プロジェクトマネージメントそれ自体が社会や企業に浸透していなかったこともあって小さな仕事の依頼はあったが本格的な仕事がなかなか取れない状況が続いていた。そんな中、最初に受注したのが株式会社日立システムアンドサービスの仕事。会社設立から1年3か月を過ぎた2001年8月のことだ。テキストも最初はすべて手作りだったので糊付けした背表紙が講座中にバラバラになるといったアクシデントもあったという。「寛容な研修担当者に助けられて何とか切り抜けました」と伊藤さんは当時を懐かしむ。この仕事のきっかけはSIC主催のクリスマスパーティーで同時期にSIC-1に入居していた日立システムアンドサービスOBの荻野さんと出会ったこと。荻野さんが日立システムアンドサービスに伊藤さんを紹介してくれたそうだ。この日立システムアンドサービスの実績を契機に日立製作所や富士通といった大手企業の研修を受注することになる。これらの企業は今でも続くアイシンクの大切なお客様だ。
 
 アイシンクはプロジェクトマネージメントスキルに関する研修やコンサルティング、PMP試験対策講座、ストレスマネージメントなど心理学をベースとしたヒューマンスキル系の研修など年々事業を拡大している。IT業界中心だった顧客もJAXAなどの公的機関、発電、製薬、電機・通信と幅が広がっている。PMP試験対策講座受講者の平均合格率も9割超と抜群の成績を上げている。さらに、今年8月には「プロジェクト成功診断装置」のシステムも開発し、関係する特許も2つ取得するなど先進的な取り組みが続いている。アイシンクは我が国のプロジェクトマネージメントを語る時、欠かすことのできない存在にまで成長した。同社の創業期に関わったSICスタッフの一人として誇らしいし、とてもうれしい。

 今後はプロジェクトマネージメントを活動の主軸にしつつも色々な事に挑戦してみたいと伊藤さんは考えている。例えば学校を作ってみたいし、ロボットにも挑戦してみたい。現在55才、伊藤さんの挑戦はこれからも続く。


アイシンク株式会社
代表取締役 伊藤 健太郎(いとう けんたろう)
東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル33階
従業員数:25名 資本金:5,000万円 売上高:4億円
事業内容: プロジェクト成功に向けたトータルサービス