かわらばん

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かわらばん地域版72号 2021年5月

最近よく聞く「創業支援」とは?
   第3回 創業支援の現場から
 本シリーズでは、創業支援の必要性、期待される創業者と支援制度などをご紹介してきました。最終回では、創業者が直面する様々な課題の中からよくある例を取り上げます。創業のきっかけは様々ですが、実際に事業を行っていく上では共通する課題も多く、支援者もその時々の経験を重ねながら支援の価値を向上させていることも知っていただければ幸いです。

◇最初の一歩を乗り越える◇

 既に顧客が特定されているわけではなく、自分自身の仮説をもとに商品やサービスを開発し、そこから顧客を獲得していこうとする創業者、かつ、それまでに仕事としては携わった経験がないビジネスに挑戦する創業者が、最初の顧客獲得までに時間を要するケースがあります。研究開発などに相応の期間を要するビジネスは別として、なかなか顧客獲得できない理由として多いのは、「自分が作った商品・サービスは売れるはず!」という思いが強すぎて、客観的な思考や判断が不足していることです。思いやこだわりはもちろん必要ですが、“購入するかどうかを決めるのは顧客である”という大前提からすると、やはり顧客の視点から商品・サービスや売り方を実現すべきです。対策として、客観的な視点を取り入れるために支援者からの意見を聞くことで、何かしらのヒントが得られるかもしれません。

 一方、これまで会社に勤めて行ってきた仕事を独立して行う創業者にあるケースが、手元資金の不足です。創業者であっても注文はあったものの、仕入や経費を払う資金が足りずに苦慮するケースがあります。これは「自分のスケールで着実に、なるべく経費はかけずに・・・」といった考えの創業者にありがちなことで、堅実な姿勢も大事なのですが、見込みがあっても自分の思った通りになかなか物事は進まないのが大半で、特に資金計画がシビアすぎるとその都度お金の工面に奔走することとなってしまいます。時間とお金は密接で、ちょっとした時間の経過で資金が不足したり、また、支出を抑えようとするあまりに、余計な時間をかけてしまって付加価値を生み出す業務に時間を割けられなくなってしまっている創業者を見受けることもあります。資金は適度に余裕を持たせつつ、何に費用をかけるべきかについての合理的な判断も重要となります。

◇成功も失敗も“学び”◇

 創業者にとって最初の一歩をどのように踏み出していくかは、その後の事業活動を左右する大事な場面で、支援者も良いスタートを切って欲しいという思いを巡らせています。先の事例はごく一部で、他にも様々なケースがあり、それぞれに一心に考え、壁を乗り越えようと必死に取り組んでおられる創業者には敬意の念を抱きます。そのような中で少しだけお伝えさせて頂けるなら、「ビジネスには必ず相手がいること、ビジネスは一回だけのチャンスで終わるわけではなく、継続し、繰り返していくこと」を常に頭の片隅に置いてもらいたいと思います。創業の決断をしたのは、自身だけのためではなく、より多くの満足や喜びを実現するためであったはずです。 

 何事も思ったとおりに行かないのが現実で、支援制度や協力者で全てが解決するわけではありません。目的や目標を達成する過程の中では繰り返し発生する問題や課題を一つずつ解決していきながら、また、新たなチャンスや出会いを手繰り寄せることで成果が得られます。思った結果に至らなかったときは、何かが足りず、自身の中の打算や油断が原因と謙虚に受け止め、次のチャレンジに活かしたいものです。

片山 寛之(かたやま ひろし)
事業創造部 インキュベーション・マネージャー
2009年にSICに入社。主に入居企業支援を担当し、マーケティング計画や資金計画など、事業全般に関する相談対応や伴走支援に取り組んでいる。2017年、JBIA(日本ビジネスインキュベーション協会)のシニアIMに登録。中小企業診断士(2008年登録)。
片山インキュベーションマネージャー