かわらばん地域版81号 2022年11月
研究開発に使える補助金(全3回)
 「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech)」の活用を考えてみませんか?<第3回>
Go-Tech(旧サポイン)を活用して研究開発に取り組んできた有限会社山内エンジニアリングの山内社長と郡司営業部長にお話を伺いました。
>研究開発の内容は?
EV(電気自動車)向けの部品「大型リチウムイオン電池用アルミ角絞りケース」を安価かつ高精度に製造するための新しいプレス工法を用いた金型開発に取り組んでいます。
本研究は、車載用以外にも、住宅や産業用にも適用可能な技術で、電動化が進む他分野への展開も期待できます。
>申請した理由や経緯は?
金型開発には多額の開発費用が必要でした。また、必要な技術シーズが多岐にわたっており、産学官連携による大学や公設試が持つ知見も重要なことからサポインに申請しました。
>採択のポイントは?
中小企業にとって、ものづくり高度化法認定申請に始まる一連の手続きや川下ユーザなどのアドバイザーを含めた共同体構築は荷が重いのが現実です。当社では、公的支援機関の専門家による助言・コーディネートをはじめ、事業管理機関やアドバイザーからの手厚い支援を受けることができ、採択まで辿り着くことができました。
>研究開発で苦労したことは?
当初は「小型電池ケース」の開発を念頭に置いていましたが、川下ユーザからの助言を受け、2年目で「大型電池ケース」の開発にシフトチェンジしました。それに伴い、開発費用や難易度は格段に上がりますが、重要なのは「将来の事業化」にあると考え、決断しました。
>本事業で意識したことは?
まず、社内体制の構築です。研究開発に対する社内の温度差をなくし、一丸となって取り組める体制を構築しました。同時に、資料作成や帳票類の管理・保管システムの構築にも取り組みました。特に意識したのは、情報共有の円滑化とアクセス権限の使い分けによる情報保全の両立です。また、開発フェーズごとの進捗管理も意識しました。なぜなら、小さな遅れの放置が取り返しのつかない事態を招きかねないからです。さらに、事業共同体間のコミュニケーションを絶やさないことにも気を配りました。開発目標に対する相互の進捗確認はルーチン化したほうがいいと思います。
>活用してよかったことは?
「サポイン」のネームバリューにより、中小企業にとっては敷居の高い大手企業とも深く交流することができ、事業化に向けた知見や人脈の獲得、販路開拓等につながりました。また、短期的な売上に直結しない開発案件は後回しにしがちですが、サポインルールの活用により進捗管理が徹底され、ほぼ計画通りの開発を進めることができました。
>進捗状況や今後の見通しは?
カーボンニュートラルという時代のニーズにもマッチし、早くも川下ユーザから試作金型の受注が決まっています。その後の検証が順調に進めば、来年には量産用金型の受注も見込まれています。
>申請を検討している方に伝えたいことは?
「事前の市場調査」が極めて重要です。当社の場合、サポインに申請する2年ほど前から、相応の調査費用を投資して、国内の車載用電池メーカーすべてと直接面談を行うなど、徹底的に市場調査をして開発テーマを絞り込みました。
これからGo-Tech に申請する皆様には、研究のための研究ではなく、製品化・事業化を見据えて、市場調査で顧客ニーズの把握に力を入れてもらいたいと思います。
【企業プロフィール】
有限会社山内エンジニアリング
代表取締役 山内 章
所 在 地 : 相模原市中央区田名2327-2
事業内容: 金型製作・プレス加工試作 等
サポイン採択実績:
▶平成28年~30年度
「円筒絞り部品への内径加工を汎用プレス機のみで完結できる金型の開発」
▶令和元年~3年度
「 圧倒的な高品質・低価格を実現するプレス複合深絞り技術を具現化した汎用プレス機用金型の開発」
【さいごに】
3回にわたってGo-Tech 事業をご紹介してきましたが、制度の概要はご理解いただけましたでしょうか。
本事業は経済産業省が実施する中小企業向けの唯一の研究開発支援のプログラムです。「ものづくり補助金」のような手軽さはありませんが、研究開発により新技術や新製品の開発に取り組む企業にとっては非常に有効な制度です。採択までの準備、そして採択後の確実な計画の遂行が求められますが、一連の取組を完遂することがGo-Tech 企業として産業界の高い評価につながっています。来年度も予算要求されており、年明けには公募がかかる見通しです。申請を検討する企業様はどうぞ今からご準備ください。
〇 佐々木 浩子 〇
株式会社ポラリス 代表取締役
25年にわたり精密機械メーカに勤務し、主に技術開発・事業開発を担当。中小企業診断士登録後、2015年株式会社ポラリスを設立。企業の課題や悩みを整理し、技術、サービス、ノウハウなどをサポート。企業や経営者の想いを“可視化” することを理念に掲げている。
山内社長(奥) 郡司部長(手前)
株式会社ポラリス 代表取締役 佐々木 浩子