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かわらばん地域版83号 2023年3月

会社法のキホン~株式について最低限押さえて欲しいポイント~
 弊所は中小企業の経営者が集まる会に10年以上所属し経営の話をたくさんしてきましたので、弁護士の知り合いよりも中小企業の経営者の友人、知人の数の方が圧倒的に多いのですが、その中でよく感じるのが、「経営者の皆さんは意外に株式のことをわかっていない」ということです。

 世の中数多の法律がありますが、その中で会社法は株式会社を経営する際に最も基本的で重要な法律です。そして、株式は言うまでもなく株式会社の基本中の基本ですから経営者が押さえておくべき最重要事項といっても過言ではありません。

 そこで、この記事では、中小企業の経営者の皆様に最低限押さえて欲しい株式のポイントをお話ししたいと思いますが、本記事では以下のことが分かります。
⑴株式ってなに?
⑵株式を持っていると何ができるの?
⑶株式を持っていないとどうなってしまうの?

 まず、⑴株式とは何でしょうか。端的に言うと、①会社の価値そのもの②会社の最重要事項決定権である、といえます。そのため、⑵株式を持っていると次のようなことができます。

 ①の意味は通常、あまり表に出てきません。多くの中小企業では配当は行われていないためです。特に意味を持ってくるのは、会社の株式を売却=会社を売却するときか、事業承継で株式を相続する時に、株式の価値はいくらなのか、という場面です。むしろ、会社経営においては②の方が日常的には重要かもしれません。具体的には、取締役の選任、解任、役員報酬、決算などの重要事項の決断は過半数、会社の憲法ともいうべき定款変更、M&A、解散等、特に重要なことは3分の2以上、の多数による賛成が必要とされています。

 つまり、⑶社長は、過半数や3分の2以上の多数の株式を保有していないと、会社の重要事項を自由に決定できないということになるのです。具体的には以下のような事態に陥ってしまいます。
ア) 自分の意思に関係なく解任されてしまう
イ) 逆に他の役員を自由に解任できない
ウ) 同じように新陳代謝のため新たな役員を迎え入れることができない
エ) 事業拡大のため第三者割当増資(特定の人に株式を引き受けてもらい増資すること)を自由にできない
オ) 会社を売却することができない
カ) 逆に、上場したいのに売却派に阻まれて上場できない

 したがって、会社経営を安定して行ったり、拡大したり、上場に挑戦したりするためには、社長が株式をしっかりと持っていなければなりません。3 分の2 以上や過半数とは言いましたが、3分の1未満でも発言力の強い方がいれば、会議を円滑に思い通りに進めることができず事実上の支障はあります。そのため、特に中小企業では、社長は100%の株式を持つことが理想とされているのです(社長ひとりで100%とならなくても、社長の家族や信頼できる親族、知人と合わせて100%でも構いません)。

 社長自身が株式を100%持っていなくとも、限りなく100%に近づける手法は確かにあります。スクイーズアウトや議決権制限種類株式等です。
 しかしながら、これらの手法を取るためには、社長(もしくは、社長派閥)が3分の2以上の株式を持っている必要があるのです。過半数でも足りません。

 日ごろ経営していると「株式をどれくらい持っているか」なんて殆ど関心ないと思います。しかし、会社という組織を大きく動かそうとすると必ず「株の問題」が立ちはだかります。そして、その時になって対処するのでは時すでに遅しということが多いのです。会社経営と同じように株の問題も早めの対処と決断が必要です。この記事をここまでお読みになられた方、できれば今すぐにでも株主名簿を確認してみてください!

〇 髙瀬 芳明 〇
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所  代表弁護士
「中小企業の成長は日本の未来を明るくする」「都心と同じサービスをローカル価格で提供する」ことをモットーに、中小企業の課題解決に特化し 全力を注いでおります。特に、M&AやIPO支援までカバーできることが弊所の特徴です。
弁護士法人 髙瀬総合法律事務所  代表弁護士 髙瀬 芳明