かわらばん地域版87号 2023年11月
たかが会議、されど会議
 ~会議は従業員のストレスの源?それともパワーの源?~
職場の日常にあたり前のように溶け込んでいる「会議」は、実は組織活動において不可欠で普遍的、かつ最も影響力の大きい事象と言えます。近年、洋の東西を問わず会議は増加傾向にあり、例えば米国の職場では、過去半世紀の間に会議数が5倍に膨れ上がり、今日に至っては5500万/日に上っています。つまり、膨大な組織の資源(従業員の時間や給与など)が会議に注ぎ込まれていることになり、そのうえ会議は今後も増えると予想されています。ところが、多くの労働者は会議を最も無駄な時間で仕事を妨げるストレスの源と捉えています。では、会議は必要悪なのでしょうか?本稿では、職場会議の現状課題と効果的な会議の運営について、最新の研究を交えて紹介いたします。
従業員数300人未満の企業に属する従業員を対象とした筆者の調査では、職場会議の問題点として、「会議時間が長い」「上司からの一方通行が多い」「ダラダラとマンネリ化している」「話が脱線する」「考えがまとまらず長引くことが多い」「発言者が決まっている」「自由に発言できない雰囲気がある」などが多く挙げられています。そうした非効果的な会議は、従業員の職務満足感やモチベーションを低下させ、心身の疲労度や離職意図を高めることが多数の研究によって明らかになっています。また、予定が会議で埋め尽くされると、ディープ・ワーク(邪魔されることなく認知的要求の高いタスクに完全に集中できる能力)が阻害され、従業員はその埋め合わせに早朝出勤や残業、休日勤務などを余儀無くされることもあります。
一方で、効果的な会議は、従業員間の心理的安全性を高め、情報を共有する、アイデアを創出する、意思決定に参加する、問題を共有し解決策を策定する、葛藤を解決する、共同体意識を醸成する場として機能します。心理的安全性とは、「所属するチーム/職場は、対人的リスク(恥をかく、拒絶・批判される)を伴う行動(問題点の指摘、支援の要請など)を、そのリスクを懸念せずに行える安全な場であるとメンバーに共有された状態」を指します。筆者の最近の研究でも、効果的な会議の運営によって会議に対する満足度と心理的安全性が高まり、その結果、仕事に関するポジティブな状態を表すワーク・エンゲイジメントとパフォーマンスが高まる可能性が示されています。
では、効果的な会議運営の実現には、どのような要素が重要となるのでしょうか。これまでの研究では、時間厳守、会議時のリーダーの行動、目標の明確さ、焦点を絞ったコミュニケーション、ユーモア、公式な議題、会議のルール/手順などが影響要因として報告されています。特に、リーダーや会議進行役は、心理的安全性を築くうえで強い影響力を発揮します。リーダーが会議出席者全員に声を挙げて意見やアイデアを表明するよう奨励すること、会議の開始・終了時間を厳守すること、従業員の都合を配慮して会議を設定することは、心理的安全性の向上に寄与します。そこで筆者は、リーダーの会議管理能力を強化するための体系的な教育研修の必要性に注目し、コーチングの手法を用いた研修プログラムの開発に着手しています。たかが会議、されど会議、まずは、現在の職場会議の実態を把握することが改善への第一歩となるでしょう。
〇 松田チャップマン与理子 〇
桜美林大学 健康福祉学群/国際学術研究科心理学実践研究学位プログラム 教授
大中小の国内・国外企業でマーケティングを専門に長年勤務した経験も活かし、ポジティブ組織心理学の分野で「働く人のウエルビーイングと組織の繁栄」に関する研究と実践を行っている。現在は、特に部下の育成を促す上司のコーチングスタイルに力を入れている。
桜美林大学 健康福祉学群/国際学術研究科心理学実践研究学位プログラム 松田教授