かわらばん

かわらばん

    
かわらばん地域版90号 2024年5月

株式会社PXP
   不死鳥のごとく、再エネ分野で 開発競争に挑む
 独自技術で“曲がる太陽光パネル”の研究開発を行う株式会社PXP(SIC入居企業)の杉本広紀取締役CTOにお話を伺いました。

 最近では身近になった太陽光発電。その歴史は200年にも遡り、「光起電力効果(光が金属板に当たることで電気が発生する)」が発見されたことが発端と言われている。この光起電力効果を利用して半導体が用いられ、異なる2つの半導体をつなぎ合わせるとプラスとマイナスの電子が生じ、電位の差が生じることで電子は一定の方向に流れ、“電気”が発生する。日本ではオイルショックを契機に太陽光発電が注目されることになるが、日本で初めて太陽光発電が住宅に設置されたのは、1993年になってからのこと。その後、市場を席捲したのは日本企業であるシャープ社やソーラーフロンティア社で、太陽光パネル市場は一気に拡大した。しかし、世界的競争では圧倒的資本力によって中国勢に市場地位を奪われ、一方では気候変動と資源不足への対応が急がれる中、いわゆる再生可能エネルギーの開発に取り組む事業者も数多く現れ、日本では国を挙げてグリーンテック企業を後押ししている。その中で独自の技術でグローバルな社会課題の解決を目指すのがPXP社だ。

 PXP社が開発を進めているのはフレキシブルな太陽光パネルで、設置環境いかんに捉われずに市場を拡大することができる。世界的な太陽光パネル市場は、いわゆるメガソーラー(1,000kW以上の発電量を持つ太陽光発電システムのこと。100世帯近くの電力がまかなえる電力量規模が発電できる)、さらにはギガソーラー(1,000kWの千倍の規模)へと、量と数の競争が激化している。一方、日本に目を向けると広大な土地は少なく、大規模ソーラーシステムの普及は頭打ちとなっているが、その状況を打破するのがPXP社の技術であり、製品である。建物が密集する場所には平面な場所が少ないが、パネル自体が曲がることで、設置可能な場所が広がり、また、軽量でもあることから設置費用も低減できる。また、移動体など送電網から離れた場所にも設置しやすい。現在、既に実用化されているカルコパイライト化合物を発電層に据え、新たに基板には厚さ50μmの軽量フレキシブルなチタン箔を用いることで、太陽光の変換効率、耐久性を高めつつ、量産による低コスト化も睨む。世界的に見れば、未だ大規模ソーラーシステム市場を拡張しようする動きに軸足がある中、PXP社はレッドオーシャンでの競争を避けながらも確実に存在する別市場へのアプローチに集中するのだ。

 また、太陽光パネルで昨今脚光を浴びているのが 有機系の“ペロブスカイト太陽電池”で、フレキシブル性や高効率性などの特長の他、主な原料となるヨウ素は日本での生産量が世界第2位とあって、国際的競争優位性を確立するためにも開発が急がれている。PXP社はペロブスカイトの研究開発も並行して行っており、さらなる先にはカルコパイライト光電変換層の上にペロブスカイトを乗せ、太陽光の波長の吸収できる幅を広げることで発電効率を格段に向上させるタンデム型(異なる種類の光電変換層を重ねた構造)の太陽電池の実用化と量産を見据えている。多くの開発者において、耐久性が弱い、大面積化が難しい、変換効率の向上といった課題を抱えているが、市場の変化を捉え、独自の研究を重ねてきたPXP社には既に事業化へのロードマップが描かれており、二段構えの技術開発、事業戦略に抜かりはない。

 技術面のトップである杉本CTOは相模原市生まれ相模原育ち。JAXA相模原キャンパスで研究員として従事した後、昭和シェル石油株式会社に入社。子会社として設立されたソーラーフロンティア株式会社では太陽電池の研究に没頭した。ソーラーフロンティア時代はまさに栄枯盛衰を経験したが、太陽電池への情熱は冷めることはなく、一旦、散り散りになった仲間たちは再びPXP社に集い、現在、13名の技術者を束ねている。

 PXPという社名には不死鳥(Phoenix)と太陽光発電(Photovoltaic)の2つの意味を込め、PXP社の創業社長である故亀田繁明氏と現社長である栗谷川悟氏、そして杉本CTOの3名で名付けた。栗谷川社長が考案したロゴは不死鳥がモチーフとされており、一度は灰となってしまったが、そこから生まれ変わる決意を表したそうだ。令和2年(2020年)のSICへの入居は、開発環境を整備するためであった。過去、SICに入居していた東京理科大学の故中田時夫教授は薄膜太陽電池の第一人者であり、PXPには門下生も多い。さらに、SICの元入居企業が開発した半導体成膜技術はPXPのフレキシブル太陽光パネル製造には欠かせない技術となっているなど、時を経た複数のセレンディピティが重なる。

 インタビューに対して杉本CTOは常に温和に語るが、技術の話題になるとそこの空間に閃光が走るような鋭さを感じさせた。「我々が選び抜いた技術の組み合わせは世界唯一で、大企業ではないPXPは、経営資源は限られているからこそ明確なビジョンを描き、迷うことなく進んでいける」と。最先端の開発に挑むグリーンテックスタートアップがここ相模原で始動し、その足取りは一歩ごとに確かなものとなっている。強く美しく積み重ねられたテクノロジーとインテリジェンス、それらを身にまとった不死鳥が、再び大空に舞い上がる時はそう遠くはない。

取締役CTO: 杉本広紀(すぎもとひろき)
所在地:   相模原市緑区西橋本5-4-21
       さがみはら産業創造センター SIC1-107
従業員数:  15 名
事業内容:  次世代光電変換素子の研究開発、製造・販売、
       製造技術供与・技術サポート
URL: https://pxpco.jp/
杉本CTO