かわらばん

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かわらばん地域版93号 2024年11月

ARM Technologies株式会社
   エネルギー革命への“前進”
 地球規模でのエネルギー運搬を可能にする”液体電池”の開発を行うARM Technologies株式会社(SIC入居企業)の荒木紀歳社長にお話を伺いました。

 気候変動を地球規模で抑えるため、GX(グリーントランスフォーメーション)が世界各地で叫ばれる中、温室効果ガスの排出量削減やカーボンニュートラルを目指す取り組みや改革に必要不可欠となるのが電池。現代の生活に当たり前の存在となっている電池は、化学反応によって電気を作る「化学電池」と、熱や光といった物理エネルギーから電気を作る「物理電池」の2種類に大別される。また、放電と呼ばれる化学エネルギーを電気エネルギーに一方向に変換することが一度だけ可能な電池が「一次電池」、放電過程では内部の化学エネルギーが電気エネルギーに変換され、放電時とは逆方向に電流を流すことで電気エネルギーを化学エネルギーに変換して「充電」という蓄積を可能とする電池は「二次電池」と区分される。この二次電池で大量の電気を貯めることができればいわゆる“送電網”に頼らず、場所を選ばずにエネルギーとして発生させ、貯め込む電池自体が液体であればその可搬性は格段に大きくなる。ARM Technologies社はこの液体電池の開発に挑戦し続けている。

 既に実証フェーズに入っている液体電池としてバナジウムレドックスフロー電池がある。電池としての劣化がなく、発火リスクが低いのが特長だがエネルギー密度が小さく、定置用として利用するにも大掛かりな設備を要することとなる。このエネルギー密度の高いデバイスが開発できれば、液体電池としての可能性が広がると着目した荒木社長。試行錯誤を重ねて水素吸蔵合金を用いて開発した液体電池は、バナジウムレドックスフロー電池の10倍以上のエネルギー密度となる300Wh/Lを達成した。高いエネルギー密度は電気エネルギーを運ぶ際の容積を小さくし、300Wh/Lを超えれば石油を運搬するコストと同等でエネルギーの運搬が可能となる。今や世界最大の太陽光発電所を有する中東アブダビでため込んだ電気エネルギーをタンカーで運ぶことも夢ではなくなり、クリーンで安価なエネルギーを世界中の国々が調達可能となる。ARM Technologies社は開発を進めることで500Wh/Lを超えることにも成功した。これはモビリティ分野でも実装可能な成果で、液体電池を注入・排出させることで、ガソリンを補充するのと同じ作業で電池自体を入れ替えることが可能な未来が現実味を帯びてくる。二次電池業界では紛れもないブレークスルーで、国内外の多くの企業はこの圧倒的な成果に強い関心を示し、昨年から大手企業との共同研究を開始、現在は3社とそれぞれ異なるテーマで開発を進めている。

 荒木社長の実家は神戸市垂水区にある。お父様は薬品メーカーの研究者で、関西県内で高校生までを過ごした。2歳上のお兄様は偶然にも電池関係の研究者として活躍されている。幼い時の二人の数々の「なぜ?」と「実験」はお母様の悲鳴に変わることもしばしばで、「蟻はどれくらいの低温まで耐えられるのか?」の実験場所は荒木家の冷凍庫の中であったことが、その一例である。山形大学工学部に進学し、学業の傍ら高校生の頃から憧れていたバイク購入の許可を得ようと思い切ってお父様と交渉にあたった結果、答えは「何か発明をしたら許す。」だった。考えに考えて形にしたのは「片手で装着できる絆創膏」で、特許として出願も果たした。出願費用を取り返すべく、大学生のビジネスコンテストに出場し、20万円の賞金を獲得。本屋で『四季報』を見つけ、薬品メーカーの数社に連絡をして、直にプレゼンも行った。この頃の逸話からも、何事にもひた向きに前に進む精神力がにじみ出てくる。山形大学大学院理工学研究部物質工学専攻を修了後はソニー株式会社に入社し、当時、リチウムイオン電池の開発に成功した中央研究所に配属された。従事した研究開発にやりがいを感じていた一方で、大組織の中でのしがらみに違和感を覚え始め、民間の受託研究会社に転職。自ら営業活動も行わなければならない環境であったが、起業し、会社を経営する立場になって、その経験が貴重なものであったと振り返る。ARM Technologiesの特徴的なロゴはアルファベット小文字のarmを遠目で眺めると芋虫に映ったことからデザインされた。“愛らしくも後退することを知らない芋虫は、やがては蝶となって羽ばたく” ことへのインスピレーションと荒木社長自身の決然たる意志、会社としての成功への信念が投影されている。2014年に起業、スタートの場所として選んだのはSICのシェアオフィスDesk10 だった。

 荒木社長は自社の説明の始めるにあたって、いつでも、誰にでも「我々はテクノロジーでエネルギー革命を起こす」と宣言する。昂然とした言葉から、折り重なったこれまでの苦労と喜びが浮かび上がる。しかし、まだ手を緩めることは許されず、実用化されなければこの研究成果は意味をなさない。加速し、激化するエネルギーデバイスの開発競争の様相は、荒木社長にとって次なる未踏の地までの心躍る通過点。この相模原で生み出したテクノロジーで人類の幸せを実現させるため、ARM Technologies社は、さらなる“前進” にギアを上げる。

代表取締役: 荒木紀歳(あらきのりとし)
所在地:   相模原市緑区西橋本5-4-30
       さがみはら産業創造センター SIC-2 R&D Lab 2313
従業員数:  5 名
事業内容:  高エネルギー密度液体電池の研究開発
URL: https://armtechnologies.jp/
荒木社長