かわらばん地域版93号 2024年11月
DX取組事例から見えるDX 推進の課題と進め方のポイント
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、中堅・中小企業において、経営効率を高め、競争力を強化するために不可欠です。今回は、DX認定を取得している企業の事例を基に、DX推進における課題と進め方のポイントを考察します。
【武州工業株式会社の事例】
武州工業株式会社(東京都青梅市)は、自動車用の熱交換器パイプなどの製造業者であり、DXに積極的に取り組んできました。同社は、国内の雇用を守りつつ、海外の安価な部品に対抗するため、独自の生産管理システムを導入し、現場の状況をリアルタイムで把握し、「ムリ・ムダ・ムラ」を発見しやすくしました。また、強いリーダーシップを発揮する経営者の指導のもと、従業員のデジタルリテラシーを向上させ、社内のシステム開発を内製化することで、デジタル人材の育成にも成功しています。[1]
【株式会社NISSYO の事例】
株式会社NISSYO(東京都羽村市)は、トランス製造業者であり、2015年に全従業員へiPadを配布し、生産や棚卸し業務、スケジュール管理のデジタル化を実施しました。さらに、ペーパーレス会議アプリ「MetaMoji」を導入し、会議効率化や図面のデジタル化を推進。IoTを活用し、生産データをクラウドで管理し、全従業員が工程進捗をリアルタイムで把握できる体制を構築しています。また、DXリテラシー向上のため、国家資格「IT パスポート」の取得を推奨し、20名が資格を取得しています。トップダウン型リーダーシップと現場のニーズを反映した技術導入が成功の要因です。[1][2]
【事例から見えるDX 推進の課題】
これらの事例から見える課題は以下の通りです。
1.トップダウンのリーダーシップ
DX を進めるには、経営者が率先してビジョンを示し、組織全体を巻き込む必要があります。武州工業、NISSYOいずれの事例も、経営者がDX の目的を明確にし、従業員とビジョンを共有することで成功を収めています。
2.デジタル人材の育成
DX を成功させるためには、デジタル技術を活用できる人材の育成が重要です。両社とも、現場の経験者をデジタル技術の担い手として育て、システムを内製化することで柔軟にDXを進めています。
3.現場の声を反映したシステム導入
現場からのフィードバックを取り入れたシステム導入が、DX成功の重要なポイントです。ISSYO では、現場の意見を基に、業務効率化のためにMetaMoji を導入し、成果を上げています。
【DX 推進の進め方のポイント】
1.明確なビジョン設定
DX 推進には、DX によって実現したいビジネスモデルを関係者と共有し、それを実現するためのIT活用方針を明確にすることが重要です。武州工業では、この方針に基づき、「一個流し生産」といった自社の生産方式に合致した効率的な生産システムを実現しています。
2.段階的なアプローチ
まずは短期的な効果が期待できる業務のデジタル化から始め、次に組織全体のデジタル文化の醸成に取り組むことがカギです。NISSYOでは、iPad配布による業務改善から始め、企業全体の業務効率化へと発展させました。
3.デジタル文化の醸成
DXを持続的に推進するためには、組織全体でデジタル文化を醸成することが必要です。NISSYOでは、全従業員がiPadを日常的に使用することで、デジタル化への順応を促進しました。
DXは単なる技術導入ではなく、企業全体の変革を伴うものです。トップダウンのリーダーシップ、段階的な取り組み、デジタル人材育成を重視することで、企業は成長と競争力強化を達成できるのです。
【参考文献】
[1] 経済産業省,「DX Selection2024」,株式会社NISSYO,武州工業株式会社,pp.31-34
[2] 株式会社NISSYO 久保寛一,「ありえない!町工場」,あさ出版
〇 小川 直樹 〇
一般社団法人首都圏産業活性化協会
デジタルビジネスプロデューサー
小川経営研究所 代表
中小企業診断士、ITコーディネータ
大手電機メーカーにて、研究開発、システムエンジニア、営業マーケティングを経て独立。中小企業診断士として現場に定着するまでの継続支援をモットーに、営業力向上の仕組みづくり、IT導入による業務改善、Web活用による集客力アップの提案を行っている。
一般社団法人地域マーケティング推進協議会理事、平成29年度中小企業経営診断シンポジウム第三分科会最優秀賞受賞。
一般社団法人首都圏産業活性化協会 デジタルビジネスプロデューサー 小川 直樹 氏