かわらばん

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かわらばん地域版95号 2025年3月

尾崎ギヤー工業株式会社
   品質を追求し、時代をつなぐモノづくり に挑戦
 産業機械や医療機器、半導体製造装置などに搭載される歯車(ギヤー)の製作を行う尾崎ギヤー工業株式会社の尾崎一朗社長を、相模原市中央区宮下の本社工場に訪ねました。

 普段の生活ではあまり目にすることがない歯車。モーターやエンジンといった動力源から機械の各部分に動力を伝え、身近なものではアナログ時計や自動車、工場などの生産設備の中でその役割を果たしている。周囲に歯形を付けた円形の物体であり、古代中国の軍事品に用いられ、年代は紀元前2700年まで遡るとも言われている。古代ギリシアの紀元前350年頃のものとされる書物では青銅製や鉄製の歯車に関する記述もあり、文明の発生から現在に至るまでのほとんどの間、人類は歯車を利用してきたことになる。その種類は多種多様で、歯すじ(歯車の噛み合う歯部分の歯幅方向の形状)の種類によって大きく分類され、<回転方向や軸方向を変える>、<減速・増速する>、<動力の分割を行う>、<回転速度や回転力を変換する>など、用途も多い。この世に存在しなければ、人類の今の生活はもはや成り立たない歯車。尾崎ギヤー工業社は中・大型の歯車を製作し、人々の生活を支えているのだ。

 1948年、東京都江東区深川毛利町で尾崎松太郎氏(現代表取締役一朗氏の祖父)が創業、翌年に法人化し、尾崎ギヤー工業株式会社となって創業場所の近隣に本社を移転した。現橋本工場は1969年に新設した事業所であり、その後、茨城県にも工場を構えた。1982年、橋本工場の増築により茨城工場は集約されることとなる。2006年、江東区亀戸にあった本社を現本社工場(相模原市中央区宮下)に移転し、相模原市内に2拠点を構える現在の体制となった。多品種少量生産型で、1個のオーダーにも対応。直径が2mを超える大型の歯車であっても、切削の工程では歯すじや固定用の穴の内径に10μm(100分の1ミリ)での精度が、歯面の研削工程では1μm(1000分の1ミリ)レベルの研磨仕上げが必要となる。形状や位置関係などの誤差の許容範囲である“幾何公差”も重要で、歯車と接する他の部品等をスムーズに稼働させるため、精緻な技術力が求められる。工場内には目線を上げなければ全容が認識できないような大型の加工機械が並ぶ中で、管理図などによってμm単位の品質データが記されている。同社は独自の品質マニュアルを構築・運用し、3年ごとに改定。ISO9001の認証取得はなく、それでも月単位で大手企業を含む約50社に納入している実績は、同社が追求し続けているモノづくりに対する研ぎ澄まされた感覚と執念の結実と言える。生産管理システムも独自に構築し、製造指示、進捗・製造履歴の管理、さらには受注から請求書の発行までを統合する徹底ぶりだ。2002年には相模原市優良事業所として、2024年には神奈川県優良工場(本社工場)として受賞。国際プロジェクトであるITER(イーター;核融合エネルギーの実現可能性を検証するための科学実験プロジェクト)に参画する大手重電工業メーカーの品質監査に合格し、2008年の第一次試作、2024年の第二次試作でも関連案件を受注した。

 尾崎社長の実家は東京都調布市にあった。幼い頃は戦闘機などのプラモデルが好きで、絵を描くことも得意だった。また、釣りや魚の飼育にも熱心だったこともあり、日大三高を卒業後は東海大学 海洋学部水産学科に進学した。在学中はサイパン、ポナペ、オーストラリアなどを調査船で出向き、実習を行ったこともある。体育会の準硬式野球部にも所属した。幼少の頃から得意だったスポーツ。中・高ではサッカー部に所属、大学の野球部・寮生活では厳しい上下関係の中で思いやりや絆の大切さを、身をもって学んだ。大学を卒業し、就職したのはペット産業の総合問屋で、営業職に就いた。当時、ペット産業は右肩上がりの成長基調にあり、その激務を何とか体力でしのいだと尾崎社長は振り返る。やがて父上(二代目代表取締役 尾崎富士夫氏)から「そろそろ、どうだ」声が掛かり、1989年、尾崎ギヤー工業に入社。各現場で学び、営業も担当した。μm単位の精度が“しっくり感”となって体に取り込まれ、モノづくりの現場にどっぷりと浸かった。入社から30年経過した2019年に、叔父である尾崎昌男氏(三代目)から代表取締役を継承し、現在に至る。趣味はゴルフ、渓流釣りで、かつては家族で出掛けていたアウトドアは、今やお孫さんも一緒に三世代で楽しんでいる。渓流釣りにもお供をしてくれるのは愛犬(柴犬)で、アレルギーを持っていることから保護犬となっていたのだそうだ。ペット業界では病気や売れ残りで殺処分されるペットたちがいる裏の現実を、いつしか当たり前に受け止めてしまっていたことへの悔恨が重なったのかもしれない。お互いに年を重ね、渓流の急峻な行程が少し辛くなってきたと、尾崎社長は目を細める。

 海外にも販路を有していることで、昨今の世界情勢は受注や生産に大きく影響する。特に米国の新政権発足により、モノづくり企業として、また企業としての力そのものを問われる厳しい状況も想定される中、一点一点に品質という魂を込めて製作した歯車は、強靭かつ精密なつくりで動力をつないでいる。今後の経営ビジョンとして第一に掲げるのは「環境変化に適応できる技術力・人材力の確保・維持継承」。尾崎ギヤー工業は技術をつなぎ、価値をつなぐことで着実な進化を遂げてきた。そして、自らが行き先を照らし、新たな1ページを刻むことで、これまでの長い歴史とこれからの未来を、今まさにつなごうとしている。

代表取締役: 尾崎 一朗(おざき いちろう)
所在地:   相模原市中央区宮下3-11-22
従業員数:  29 名
事業内容:  各種高精度歯車製作、大型部品機械加工、
       乾式クラッチブレーキ製作・販売
URL:http://www.ozaki-gear.co.jp
尾崎社長