かわらばん

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かわらばん地域版95号 2025年3月

ビジネス・インキュベーションの普遍性
 今回は一般社団法人JBIA(日本ビジネス・インキュベーション協会、以下JBIA)の星野会長に、ビジネス・インキュベーションの起源、産業界における役割やこれまでの変遷についてご寄稿頂きました。

 世界でビジネス・インキュベーション(BI)と呼ばれる概念が生まれたのは、1959年米国NY州の片田舎で始まったBatavia Industrial Center の活動と言われ、それが四半世紀遅れてわが国に導入され、かれこれ40年が経過します。わが国でBIが始まった頃の最先端技術はメカトロニクスでしたが今はAIに代わっています。このように産業は短期間で変遷していきますが、現在、経産省イノベーション・環境局が令和6年度補正予算で「地域大学のインキュベーション・産学融合拠点の整備」の利用者を募るなどBIは大学にまで浸透しています。

 JBIAは、元通産省の時限的なBI推進事業、日本新事業支援機関協議会(JANBO)の活動を引き継いで2008年に発足しました。そしてBI普及と推進人材育成のためインキュベーション・マネジャー(IM)養成研修を続けており、研修過程の実習機関としてSICの協力も得ています。(かわらばん地域版94号2025年1月全国に広がるインキュベーション活動)

 変化の激しい現代にあって、BI概念が脈々と40年を超えて生き続けるにはそこに何か普遍性があるのではないかと気付かされました。そこで思い当たったのがBI事業に参画した当初から最も印象に残っている” did whatever was necessary to help them grow”(彼らの成長を助けるために必要なことは何でもした)という、BIの起源Batavia Industrial CenterでIMの父と呼ばれるヨセフマンキューソの語録です。

 短い文章ではありますが、そこには目的に向かい能動的に行動するspiritが感じられ、事務的な相談対応との間に大きな違いを感じました。現役時代にこの姿勢を参考に若い起業家と接してみたら、彼はグングン成長し会社は後に株式公開を果たすまで成長していました。米国の起業家育成ではEntrepreneurshipの獲得が中心となるので、それに対応するIM にもspiritが求められるのではないか。この考え方を軸にIM養成研修を始めたところ25年も続いており80回、1500人が受講しています。受講層は当初の各県に在る公的大型BI施設の職員から、商工会議所、商工会、信用保証協会、地方銀行、民間シェアオフィス等へ多様化し広がりを見せています。

 産業支援策はマスを念頭に制度設計されますが、IMはそれらを起業家毎の個別事情に合わせ、しかもタイミング良くニーズに適合させる変換器の役割と解釈すると、多様化した支援機関の現場実務者に共感を呼び、演繹的な産業政策を実態に適合させる術として評価され普遍性に繋がっているのかもしれません。

 経済原則で成り立っている先進国は、変遷する産業に対し不断の挑戦が欠かせません。それが困難なことは今更言うまでもありませんが、未来に成功確約のない起業家を支えるBI事業もまた起業家活動です。何もしなければ衰退するだけの経済社会の中で、短期成果が見込めぬ困難なBI事業を、驚異的に発展させたSIC活動もBIの普遍性を検証している様に感じられます。

著書:「最新ビジネス・インキュベーション 世界に広がった地域振興の智恵」同友館・2006年、「よくわかるビジネス・インキュベーション」同友館・2001年他

〇 星野 敏 〇
一般社団法人JBIA 会長
大手鉄鋼メーカーでの新事業開発の経験が縁で、株式会社ケイエスピーでビジネス・インキュベーションの立ち上げに参加。帰社後、社内ベンチャーに挑戦した。その後再びKSPに転籍し、わが国最初のIMとしてベンチャー支援の第一線に従事。2000年より日本新事業支援機関協議会(JANBO) に勤務。JANBO事業終了に伴い、2009年にJANBO活動の一部を引き継ぐ一般社団法人JBIAを設立し、同法人の会長に就任した。現在もIM養成研修を主宰し、全国に渡ってIMの輩出や育成、IM間のネットワーク形成のため、精力的に活動している。
一般社団法人JBIA 会長             星野 敏 氏