かわらばん

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かわらばん地域版97号 2025年7月

【第2回】ウェルビーイング経営の実装ポイント
 「ウェルビーイング経営って、理想としては理解できるけど、実際には難しそう…」
 そんな声は少なくありません。制度だけ整えても社員の心に届かず、「やってはみたけど定着しなかった」というケースもある中で、今もなお着実に試行錯誤を続けているのが、AZAエンジニアリング株式会社(神奈川県相模原市中央区)です。

 AZAエンジニアリング社は、全社員35名ほどの製造業の会社で、健康経営の取り組みを土台に、従業員を最も大切にする「従業員第一主義」を実践している企業です。その取組が奏功し、たとえば、メンタルヘルスに起因する休業者ゼロを達成したほか、求人募集を出す際にも毎回多くの応募が集まるなど人材の定着や獲得で確かな成果をあげています。

 そんな同社が、さらに一歩踏み込んで取り組んでいるのが「ウェルビーイング経営」です。きっかけは、組織の状態を客観的に把握するために実施したウェルビーイング診断でした。そこからは、「もっとチームのつながりを感じたい」「自分の強みを活かせる仕事がしたい」といった従業員のニーズが見えてきました。

 経営陣はこの結果を受けて、若手社員も巻き込みながら、「やりがいのある仕事ってどんなこと?」「成長を感じられる瞬間って、いつだろう?」といった問いをテーマに、対話型の社内会議やワークショップを実施。立場を超えたフラットな対話の場をつくることで、組織全体に「自分たちで職場を良くしていこう」という雰囲気が育まれ始めています。もちろん、すべてが順調にいったわけではありません。取り組みの中には空回りすることもありましたが、それを「うまくいかなかった」と終わらせるのではなく、「どこに工夫の余地があるか?」とふり返りを行っています。まさに、“失敗も含めて組織の学び” ということがいえるのではないでしょうか。

 AZAエンジニアリング社のように、ウェルビーイング経営に挑戦する企業に共通する4つのポイントをまとめてみます。

①現状を見える化する
診断やアンケートなどで、“いまの組織の状態” を客観的に捉える。

②経営者自身がコミットする
経営層が旗を振り、社員と向き合う姿勢を示すことで信頼が生まれる。

③社員を巻き込む・一緒に取り組む
制度や仕組みを“与える” のではなく、対話を通じて共につくっていく。

④失敗を恐れず試行錯誤を重ねる
うまくいかないことも“経験値”として蓄積し、次に活かす柔軟さが大切。

 ウェルビーイング経営に完成形はありません。だからこそ、「私たちらしい幸せな職場って、どんなかたちだろう?」と問い続けることが、企業の未来を支える力になります。

 次回は、こうした取り組みの“先” にある、これからの企業経営のあり方について考えていきます。中小企業だからこそ実現できる、しなやかで力強い経営の可能性に迫ります。

〇 漆間 聡子 〇
中小企業診断士、ポジティブ心理学コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、
経営情報修士(MBA)
株式会社B-nO Consulting 代表取締役

ポジティブ心理学を経営に取り入れたウェルビーイング経営の実践を通じ、企業の成長と社員の幸福度向上に貢献することを使命として、2019年に株式会社B-nO Consultingを設立。前職では文系SEとして、主にFA(ファクトリーオートメーション)や組込システム開発に従事。ダブルワークでSE時代にキャリアカウンセリングを行い、実績を重ねてきた。ビジネススクールで経営学を学び、「人」を中心に据えた企業経営を提唱している。
株式会社B-nO Consulting            代表取締役 漆間 聡子 氏